虫のいい空想

飛行機の中でチョコレートとコーヒーのサービスがあったせいか、ふと気づいたら胸がときめく気持ちになっていた。
なんだかこのあといいことが待っているような気分。
せっかくなのでこの気分にぴったりの、虫のいいことを考えてみよう。

空港にはわたしを迎えに来ている人がいる。
その人はわたしが好きで、わたしに早く会いたくて、待ちきれなくて空港へ来た。

わたしを家まで安全に送り届けたくて、道みち顔を見ながら話したくて、少しでも長く同じ時間を過ごしたくてやって来た。

そしてわたしもその人に会いたい。その人に会えるから飛行機の到着が待ち遠しい。着いたらすぐに声が聞きたいのでスマホ機内モードをもどかしく解除する。

送ってもらうのがうれしくて、楽しくて、いつまでも一緒にいたい。はやくはやく会いたい。その人がいるところに着くのが待ち切れない。

そこまで考えて、これは恋愛のはじまりではなく、ここ二十年ばかりの日常だったことに気がついた。ずっとずっと、出かけるたびにこうして再会を待ちわびて、顔を見るたび互いに喜んだ。


「初めてもちおさんに会ったのはもちおさんが高田馬場オフにはてこさんを迎えに来たときだった。やさしい人だと思っていたのに『断固連れて帰ります』みたいな厳しい雰囲気で、ちょっと怖かった」
とkunicaさんから懐かしそうにいわれた。
「まだいるみたいな気がしちゃう」

いつも迎えに来てくれた。虫のいい日々だった。
機内でしばらく泣いてしまった。手元にティッシュもハンカチもなくて困った。

「あなたに会いたくて会いたくて 眠れない夜夢で逢えたら」という景気のいいあの歌が、頭の中で流れ続けていた。