夫を亡くしてセブ島に留学することになった その12 色物枠の語学学校

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「初めての週末はどうだった?」と朝から4人の講師に聞かれる。その都度メモしておけばいいものを四回ともでたらめ英語で乗り切った。ほとんど眠っていないのでいつも以上に言葉が出てこない。とにかく眠い。今朝は夜更かしに目覚まし設定ミスのダブルパンチで二度寝して朝食抜きである。

 

一週間いてわかったことは、たとえこのまま5年、10年ここにいたとしても、でたらめ英語で話が通じる限りまともな英語が自然に身につくことはないだろうということだ。

 

実際長年日本で暮らして商売までしていても日本語はカタコトだけという外国人は日本にもいる。知人のドイツ人の旦那さんなんか日本語どころかカタコト英語のみで大勢の日本人を虜にして何十年も日本で暮らしていた。いや、日本人でもそういう人はいる。言語そのものが好きな人は別として、言語に頼らずコミュニケーションがとれると言語をまともに覚える気にならない。

 

CALMINさんちのはるくんが「ぎり、あむ」で「おにぎり食べたい」を伝えてくるという話を聞いて、「わたしもはるくん式で講師陣、現地人とコミュニケーションをとってる」と思った。なんなら語彙もはるくんレベルである。TOEICは295点だった。

 

しかしわたしは辞書もネットも使えるし、言葉でダメなら身振り手振りと図と絵も使うからぜんぜん困らない。いや、困る。わたしはお客さんにお金払ってもらえるレベルの英語を使えるようになりたい。「ぎり、あむ」で足踏みしているとお客さんはあんまお金払ってくれないと思う。

 

「いつまでもでたらめ英語で雑談しとったらあかんわ」と思って講師に初心者向けのテキストを教えてくれと頼む。講師おすすめの BASIC GRAMMER をオフィスに注文したのだけれど、スタッフが間違えて INTERMEDIATE をくれた。しばらくやってみて表紙がちがうと気づき、あらためてBASIC GRAMMER を買う。

 

「でもこれ、ほんと中学生レベルなので物足りないと思いますよ」といわれたが、ぜんぜん大丈夫。十分お腹いっぱいになる。なんなら食べきれない。これを残り三週間で終わらせられる気がしないし、帰ってこれに取り組める気はもっとしない。

 

「…というわけで、ここにいても英語話せるようになれると思えない」と講師にいう。

「一ヵ月は確かに短いわ。時間が足りない。でもネガティブなこと考えちゃだめ。正しい英語を使うっていう目標に集中するのよ。focus! do you understand?」

ああ、つまり下手の考え休むに似たりってことでしょう?と思ったが、これを説明するための時間が惜しいのでYes, I see とコクコクうなづいてBASIC GRAMMER をやる。

「I am student」「No,”I am a student”」and you are teacher.

 

二人目の講師も同じ質問をしてきたのでざっくり同じ話をする。

「あなたはいまばらばらの単語ででたらめ英語をしゃべってるけど、一ヵ月すればセンテンスが繋がった英語が話せるようになるよ」

「信じられないな」

「えー!なんで!大丈夫だよ。みんなそうだから」

「このペースで一ヵ月でこの本一冊終わると思えない」

「つまり仕事と英語とブログの更新で時間がなくて疲れてるんだ?」

「そう」

「計画を立てなきゃね。計画立ててる?」

ざっくり立てたけど守っていません。誰だよ、留学中に仕事の予定をこんなに入れたやつは。できるわけないだろ。と思ったが、これをまた説明してると貴重なマンツーマンレッスンの時間がでたらめ英語の雑談で終わるので再びBASIC GRAMMERに入る。

 

三人目の講師はもともと雑談が好きではなかったようで、先週GRAMMERを出したら目を輝かせて人が変わったようにテキパキわかりやすくINTERMEDIATE の問題を解説してくれた。なので先週どうしてたかを説明する代わりに「土日ほとんど寝てないから眠い」と簡潔に伝えてさっさとGRAMMERに入った。

 

四人目には愚痴はこぼさず眠いとだけ伝えてGRAMMERに入った。実際とても眠かった。よく途中で帰らなかったと思う。これが終わったら昼ご飯なので帰ってまた来るよりがんばって昼まで起きておいた方がいいのだ。これが留学のいいところだ。自宅学習だったら途中でやめてるし、英語教室に通っていたら休んでる。でもとりあえず教室へいって生徒が自分しかいなければ成長の度合いはさておき英語を学ぶ機会は手に入る。

 

学校によってはこういうちんたら受講生は固くお断りらしい。

 

わたしは事前に何も調べずにここへ来たが、留学してから「フィリピン留学」で検索していろいろなサイトを見た。「フィリピン留学は緩くて役に立たない」「旅行気分でちんたらやってる生徒はうちにはいれない」「授業後も生徒がみな自主学習に励んでいるのが本校の特徴」とビシビシ書いている学校をいくつも見た。「うちには茶髪の生徒はいない」と誇らしげに書いてある学校もあった。

 

3Dで「来た当初はハローくらいしか言えなかった」という気のいい茶髪のギャルに何人かあった。「仕事を辞めてきたけれど、次の仕事や次の明確な目標がまだ決まっていない」という兄ちゃんらにもあった。前述の学校ではこうした人たち、「とりあえず海外いってみるか」とか、「なんとなく英語話せたらいいな」とか、「夫が死んだのでご飯を三食出してくれるところに行きたい」とか、こういう人はお断りということだ。

 

そうした学校の評価軸によれば「おもしろい人に来てほしい」という理由で一芸留学まで募集している3Dは完全に色物枠である。しかしこういう枠があったおかげでわたしはずいぶん助かっている。わたしと同じように紆余曲折あって人生の岐路に立たされ、行く道を決めかねている人にとってもここは居心地のいいところなのではないかと思う。

 

そして数日間の雑談を経て「GRAMMERをやりたい」「SPEAKINGをやりたい」と伝えたときの講師陣の目の輝きをみるに、TOEICなり留学なりワーキングホリデーなりはっきりした目的を持つ生徒も講師陣は大いに歓迎するんじゃなかろうか。ここへ来る前からそれが決まっている人もいるし、わたしのように来てから思い浮かぶ人もいる。

 

5年間のラジオ英会話とオージーのゆるゆる英語教室に通ってきた母は、これから企業に就職するわけでも海外で働くわけでもない。余生の楽しみを広げるために英語を学ぶ機会をもとめてここへやってきた。そしてそれを大いに楽しんでいる。

 

 3Dアカデミーは規模が大きく日本人が多い安全なドミトリーのようなところだ。バックパッカーをやると出会いもあるし、外国語も覚える。でもバックパックの目的は旅をすることで、旅の目的とは著名な観光地めぐりの速度を競うとか、より高価で珍しい土産物を安く手に入れるとかではなく、もっとあいまいで不明瞭なものだ。

 

もちろん期日までにTOEICスコアを上げないと人生崖っぷちという人は進学校のようなスパルタ式の学校が目的に適っている。自分探しなんてそげなあいまいなもののために何週間も家をあけ、仕事を離れて金払うなんて贅沢なご身分であることは間違いない。しかし大義面分を掲げつつモラトリアムを買えるというのはなかなか悪くないですよ。とくに人生のエアスポットに落ちたときには。

 

今日は何十年かぶりに先生から生活指導をされましたので、先に仕事を片付けてからブログを書いた。今日はこれで寝ようと思います。明日もご飯を食べて英語の勉強がんばります。