夫を亡くしてセブ島に留学することになった その11 初心忘るまじ

週中の昼休みと夜、そして土日に仕事を入れようと仕事道具を一式もってきたのだけれど、週中はとてもそれどころではなかった。ということで初めての週末が勝負だと思っていたが、環境に慣れて余裕が出たのか一気にもちおロスが襲ってきてこれまたそれどころではなかった。

 

日本にいるあいだは出張をたくさん入れて移動と仕事で予定をびっしり埋めていた。忙しくして悲しみを紛らわそうとしていたわけではない。ご飯が食べられる環境に身を置こうと思ったら自宅にいるよりホテルに身を置いて外食した方がよく、ホテル泊なら仕事を取った方がよかったので結果的にそうなった。

 

葬儀が終わった直後はもちおの亡骸を連れて帰ってきた家に一人で眠るのは耐えがたかった。それでも丸ひと月が過ぎると骨壺のある部屋で眠ることに少しずつ慣れた。ゲリラ豪雨のように襲ってくる胸が張り裂けるような痛みに大泣きはする。それでもひとりでもちおがいない家にいることに少しずつ慣れてはきた。

 

出張の予定を立てた当初はもちおが遺したものに囲まれて暮らす厳しさを思えば旅先はまだ楽なんじゃないかと思っていた。しかし予想に反してゲリラ豪雨的な寂寥感は旅先でも自宅と甲乙つけがたい激しさで襲ってくる。旅に出ればもちおと旅に出たことを思い出すし、そうでなければ出先からもちおに逐一起きた出来事を報告してきたこれまでの日々を思い出す。東京だろうが釜山だろうがセブだろうが何でもかんでももちおと見たいし、もちおに言いたい。

 

(フィリピン、セブ島か。なんでこんなところにおるんかいの。ここにおっても英語話せるようになるとも思えんし、仕事もできんし、はあ、ほんとなんをしよるんじゃろう。こげな風に適当な山口弁を話す相手も、もうおらんな。ひとりになってしもうたでよ。)

 

泣くことも眠ることもできず悶々として日曜日の朝を迎えた。仕事も宿題も手が付かない。朝食は抜いて昼食で待ち合わせをしようと母にLINEを送り、カーテンを開ける。そしてふと思った。

 

(ほいでも、いま家におってこの気力体力やったら遅かれ早かれやせ細って死んどったじゃろうな。セブにおってよかったでよ。こっち来てから三度三度食事も出るし、ようけ食べるし、外へもいくし、人と話もするけぇの。)

 

一周まわって当初の目的を思い出す。

 

(ほいだらやっぱりここにおってよかったいの。英語は二の次よ。そうそう、そうじゃった。それで来たんじゃもんな。)

 

(一芸留学当たるとか滅多にないでよ。こげなもんが当たるっちゃ、こら「生きとけ」っちゅうこんいの。)

 

この一週間で朝型が身についてしまったのでそのまま起きた。寝不足のまま母に声をかけ食堂へ向かう。母が入用なものがあるというので食後そのまま初タクシーで巨大なショッピングモールへ出かけた。11月のセブは入道雲が出る陽気である。

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 結局宿題と仕事はできなかった。でもいいの。ご飯は食べたし、外へ出たし、人とも話をしたから。英語もちょっと使ったしね。

 

一日生きると一日死ぬ日が近づく。あの世があるなら、そこにもちおがいるなら一日生きると一日もちおに会える日が近づく。もちおと生きた日々が日一日と遠くなることが耐えがたかった。でも一日過ぎるごとにもちおに会える日が一日ずつ近づいてくるのなら、少しはましな気がする。

 

もちおがあちらへいってしまってから頭の中でその場の状況と噛み合わない歌が流れることがよくある。先日夜の通りをひとりで歩いていたら80年代の洋楽が流れてきた。サビの歌詞をうろ覚えで検索したら、曲名は「That What's Friends are for」だった。

 

検索して歌詞をはじめて知った。もちお、今回は洋楽できたかと思った。「もちおさん、DJかよ」と友人がいう。

 

Whoa, and then for the times when we're apart
Well, then close your eyes and know
These words are coming from my heart
And then if you can remember

 

Keep smiling, keep shining
Knowing you can always count on me, for sure
That's what friends are for
For good times and bad times
I'll be on your side forever more
That's what friends are for

 

ameblo.jp

月曜日からまたご飯を食べてがんばります。