夫を亡くしてセブ島に留学することになった その9 夜の貧富

風呂上りの母がスマホを食堂に忘れてきたというので、ひとりでホテルを出て食堂へ探しにいった。帰りに夜の街を歩いた。セブ島に到着してから通学路以外はどこにも立ち寄らず、常に母と連れ立って規則正しく暮らしてきた。はじめての夜の一人歩きだ。 

 

3Dアカデミーでは17時半に夕食がはじまる。授業のあと飲みに行ったり観光に繰り出したりしている生徒も多いが、母とわたしは授業が終わると一目散に食堂へ向かい、一番乗りで食事の列に並ぶ。食事をすませたらまっすぐホテルへ戻るので、18時半には自室で休んでいる。19時過ぎに外に出るとずいぶん遅くに出歩いているような気持ちになる。

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学校前の通りを当てもなくどんどん歩いてみた。道の両脇に屋台や半屋台のような店が並ぶ。串刺しの肉を売る店、蒸したり焼いたりした饅頭のようなものを売る店、量り売りの穀類の店、駄菓子屋、なぜか遅くまで開いている床屋など雑多な店が立ち並ぶ。

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排気ガスがとにかくすごい。ショーケースや蓋つきの入れ物がある店はまだいい方で、量り売りの穀類はかなりの排気ガスがまぶされてしまうと思う。

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水たまりだらけの歩道を歩く。大人しい痩せた野良猫がそこら中にいる。

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野良猫は人を怖がらないが懐いてもいない。野良犬は屋台のまわりを陣取ったりしているが、野良猫の方がやや警戒心が強いように見える。どの猫も痩せている。

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店先の飼い猫さん。皮膚病が痛々しかった。

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側溝の蓋の網目は子供の足ほどもある。落っこちそうで怖い。猫を撮ろうと思ったらすぐ近くで人が何人も横になって寝ている。猫も路上生活者も同じように暮らしている。

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その横をジプニーに相乗りしている人たちと並んでピカピカの外車が次々に通り過ぎる。真っ黒な排気ガスだけが同じように吐き出される。

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ホテルの窓から見えるこのモニュメントが何なのかずっと疑問に思っていた。

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政府の施設かと思ったらモルモン教の施設だそうだ。この一角だけ別世界である。

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突如あらわれたこじゃれバー。別世界その2である。

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リッチな男女とツーリストがエレクトリカルパレード風の庭で涼んでいる。

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こじゃれバーを出ると突然大量の子供たちがあらわれた。フィリピンは子供の数が多いため、小学校も三交代制だという。こちらは高校らしいが、出てくる生徒たちはみな幼く小学生くらいに見える。高い塀と鉄条網といかついおっさんらとあどけない子供らのギャップがすごい。

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歩道橋から見るフィリピンの二宮金次郎的な誰か。個々人がその都度車に交渉しながら車道を渡るしかないというセブの交通事情を考えると学校の前に歩道橋があるのはかなりの配慮だ。

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通学路を離れてはじめての異国で夜の街を歩くことにずいぶん緊張していたけれど、ここではまだ子供らが学校から帰る時間なのだった。信号のない排気ガスと粉塵まみれの道を子供らは迷いなくピヨピヨ楽し気に話しながら帰っていく。学校へいける子供、制服を着ている子供は恵まれている方なのだと後で知った。

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一見寂れた商店街のショーウィンドウのように見えるが、よく見るとこちらはインポートを扱う高級ブティックらしい。

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キティちゃんブランドを子供に着せる余裕のある親のための店だものね。ベトナムへいったとき、サンリオでキティちゃんグッズの詰め合わせを作ってお土産にして大感激されたことを思い出した。パチモンキティが溢れる中でサンリオ純正キティはステイタスになるとのことだった。

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3DアカデミーがあるJY Square へ戻ってきた。到着初日、あんなに怖いと思った通りがいかに富裕層向けのエリアなのかがよくわかった。モールのマクドナルドが眩しい。

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ホテル前。裏びれて荒みきった脇道に見えた通りがいまや閑静な一角に思える。

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ホテル一階のチキン食べ放題レストランもクリーンでハイソな場所に思えてきた。Tシャツにパンツとラフな格好で騒いでいる人々も髪型や持ち物からここでは成功した側の人間なのだとわかる。

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隣のカフェテリアなんかまるで代官山だ。食べかけのケーキとジュースを前にソファに沈み込んでタッチパッドで遊ぶ子供と、それを気だるげに見守りながらスマホを眺めている母親がいた。このホテルを怖いと思ったなんていまとなっては信じられない。

 

翌日、同期生に誘われて IT PARK のナイトマーケットへいった。すごかった。大都会である。横浜の関内、桜木町周辺のビジネス街の規模を大きくしてバブルの景気をまぶしたようなところだった。広々としているので比較的空気もいい。セブにきてビーチとここだけ見て帰る人はセブを洗練された都会的な街だと思うだろうな。

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3Dアカデミー校舎の隣にもあるファミリーレストラン Jollibeeがあった。学校隣の薄暗い看板の店と違ってピッカピカでキラッキラしている。客層もおしゃれ人間ばかりに見える。

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一芸留学の先輩であるかんどーさおりさんが店を出しているナイトマーケットは高層ビルの真ん中にあり、テントはどこも人でいっぱい。大盛況のフライデーナイトである。

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たこ焼き屋のテント発見。かんどーさんの店かなと思って尋ねてみたら、斜向かいの店だといわれる。 

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桜模様の半被を着ている奥の店らしい。かんどーさんは帰国中でいなかった。しかし今年ブログを読んでかんどーさんがたこ焼きを焼いてると知ったときには、まさかここに来ることになるとは思わなかった。もちおの容態次第ではひとりの人生を迎える覚悟が要ることになりそうだとは思ったが、それで留学することになるとは夢にも思っていなかった。ナイトマーケットにはしゃぐ同期生を見ながらひとりたこ焼き屋の前で感慨にふけった。

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ベトナムのフォー、飲茶、アイスにフレッシュジュース、焼き肉、焼き鳥とアジア伝統のファストフード店が立ち並ぶ。

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マンゴーアイス。小銭が足らなくてわたわたしていたら負けてくれた。

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高層ビルの谷間で屋台に囲まれて金曜の夜にはしゃぐ人々。外国人旅行者が大勢いる。セブに来てから「こんなに物価が安い国でたこ焼き屋を開いて採算がとれるんだろうか」と思っていたけど、これだけ集客があればいけるのかもしれない。世界的なマーケットがここにある。

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ふいにもちおを思い出して喉が詰まる。一緒にいたらぜんぜん違って見えただろうと肩にもたれて笑う恋人たちを見て思う。もちおがいたらそもそもここに来ることもなかっただろう。いまの状況が恵まれてるんだか不遇なんだかわからない。

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この国はわたしには考えられないような貧しさがあるけれど、小学校から英語”で”授業があるし、子供たちの数はとても多い。電気も通っていない地域がある一方で世界に通用する都市も観光地もあり、毎年大勢の外国人が訪れ外貨を落としていく。平均年収は日本と比べてはるかに安いけれど、学費は日本ほど高くなく海外に向けた事業に参入するため社会人になってからお金を貯めて大学へいく人もいる。

 

日本には信号があり、歩道があり、設備の整った学校はあるけれど、そこに通う子供たちは減る一方で不登校児は年々増える。高い教育を収めるために私塾も含めて驚くような時間と資金とコネが必要で、そこまでしておさめた教育の価値を評価する企業はさらに驚くほど少ない。仕事で使えるどころか日常会話レベルの英語を話せる人もほとんどおらず、外国人向けに観光地をアピールする勢いも弱い。

 

将来性込みで考えたときに豊かな国、貧しい国ってどっちなんだろうな。もちおがいたら夜を徹して話したのにな。示唆に富んだ意見をくれただろうし、何より意表をついたことをいって笑わせてくれただろうな。

 

賑やかなお祭り騒ぎを前にして、なんだかすっかり感傷的になってホテルへ帰った夜だった。