夫の寝かしつけ

去年の暮れに、社内ネットワークのトラブルシューティングのため、泊りで県外へいくもちおについていった。

 

およそ3時間の距離を交代で運転する。道中適当な店で食事をとるが、胃が狭くなっているもちおは食べると身も世もなく苦しがる。こういうとき、痛みを和らげることが何もできないので無力感を覚える。運転を交代して助手席で休ませる。役に立った。ついてきてよかった。自腹でいいからホテルをとろうと提案して宿を探したのもわたしだった。ひとりだと飲まず食わず眠らず徹夜で無茶をするのでここでも役に立った。わたしは助けになっているのだ。

 

わたしを宿に残してもちおはすぐに会社へいった。わたしも待っているあいだに自分の仕事をしようと思ってあれこれ持ってきたが、何も手につかない。寒い部屋で膝を抱えてひたすらスマホを眺めて過ごす。不甲斐ない。コートを脱ぐことすらできない。なぜだろう。なぜだかわからない。目が痛い。でもスマホから目を離すこともできない。

 

夜も更けた頃、ようやくもちおが帰ってきた。帰ってくるなり敷いておいた布団で寝てしまう。疲れているところを起こすのも気の毒だが、せっかく食事と温泉つきの宿にしたのに食事の時間も入湯時間もいよいよ残り僅かに。しかもこれだけ長いこと暖房を入れていたのに部屋は寒い。もちおの身体が心配でじりじりする。

 

結局大慌てで温泉に入って出てくると名物料理の時間は終わっており、味気なくファミレスで食事を済ませる。もちおは先に部屋へ戻り、わたしは食券の残りでひとりビールを飲んでいた。なんだろな。いなくてよかったかな。役に立ってるのかな。何やってんのかな。ああ、寒い。なんて寒い店なんだ。

 

部屋へ戻るともちおは枕元にあれこれ散乱させたまま布団に潜り込んでいた。眠っているかと思ったが、妻の気配を感じるとため息をつき、苦しそうに唸り始めた。最近は食事のあと胃が苦しくて眠れない。あそこが痛い、ここが痛いと悶えては身体をねじって少しでもゲップを出そうともがいている。

 

ああ、困ったねえ、苦しいねえ、かわいそうにと言いながら抱き枕のようにもちおにしがみつく。寒い。頬を寄せ、二人の硬く薄い肋骨を重ね、太腿を絡める。

「重くない?」

「大丈夫」

もちおは目をつぶったまま答える。本当に寒い。なんだ、この部屋は。寒いけれども人が入っている布団は暖かい。すっかり瘦せ衰えたわたしたちは寒さにふるえながら互いのぬくもりをいよいよありがたく思う。

 

抱き枕になったもちおはすぐにすやすやと寝息を立て始める。身体をぴったりつけているともちおの悶えは不思議なほど納まる。わたしは両手足を伸ばして好きな体制で邪魔されずに眠りたいので、睡眠エリアに侵入されると眠れない。でも、もちおが深く眠るまでのあいだ起きてもちおを抱きしめ続けるくらいのことならなんとかできる。

 

寝息が安定してきたら、身体にまわした腕をそうっと抜く。それから徐々に、絡めた脚をほどき、背中だけで寄り添い、さらに伸ばした手だけをつないで、少しずつ自分のエリアに戻る。途中起きそうだったらまたもちおのエリアに戻って最初からやり直す。

 

ついてきてよかった。役に立ってる。

そう思い直してわたしも眠った。