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一年ぶりの境港と出雲アゲイン

わたしの用事で大阪へいった。帰りにもちおの希望で出雲に寄った。車はこういう寄り道ができるところがいい。わたしが眠っているあいだに決めたようで、目が覚めたら出雲の田んぼがどこまでも広がる夕暮れの通りを車でひたすら走っていた。

 

神無月にいくはずだった出雲

去年出雲へ詣でたときは神無月にまた来ようと話していたのだけれど、10月に入り、日程を決め、宿を取ろうとあれこれ気をもむ妻をよそにもちおは「ちゃんと考えがあるから待って」とじっくり構えており、明日は12月という日に「『今年の神無月は来んでええ』と大国主命がおっしゃっておる気がするんよ」と言い出し出雲参りは延期になった。ガッデム。

 

もちおは仕事に関しては予定と時間をきっちり守る人だけれど、どういうわけか私生活では計画を立てて守るのが大嫌い。結婚式も家族計画も「ちゃんと考えがあるので待って」を真に受けているあいだに流れてしまったので妻は怨みに思っている。理由がさっぱりわからない。神通力のある人に頼んで前世の因縁か何かなのかと聞いてみたいくらいだ。

 

その代わりというか、突発的な遠出や突然の外出は大好きで、無謀であればあるほどうれしそうにする。そんなわけで用事で大阪へ出るという妻を車で送ると言い出したときはノリノリだったが*1、いけば当然疲れるので復路のご機嫌は最悪だった。

 

ご機嫌ななめは命取り

わたしの大阪の用事にもちおはまったく興味がなかった。翌日神戸にいるわたしの親戚を訪ねたが、もちおはこの親戚とも日頃行き来がない。連日面識のない人と密に関わることはもちおにとって大きなストレスだったらしく、疲れも出てきて機嫌の悪さは高まる一方だ。

 

もちおはいまだがん患者であり、すぐにも胃切除手術を受けるか化学療法を再開するようすすめられている身でもある。疲れと機嫌の悪さは命に係わるので妻は重圧を感じる。「だからいったのに」感がすごい。

 

そんなわけで神戸のインターに乗った直後、とつぜん「島根に出て境港駅前の回転寿司屋へいってノドグロを食べる」と言い出したとき、なんでもいいからこれで機嫌が直ればいいなあとわたしは思った。

 

もちおは去年はじめて水木しげるロードへいったとき、境港駅前の回転寿司を食べて以来「何でも食べられるなら何が食べたい?」と聞くと、いつも「境港でノドグロが食べたい」といっていた。実際なんどか車を飛ばして食べに行こうといったこともあった。しかし福岡から島根は遠いということを去年思い知らされているので、さすがにノドグロのためだけに出かけることはなかった。

 

遠回りをすれば疲れるに決まっているし、帰りも遅くなる。翌日は仕事だ。それでもわたしが帰路のルートを決めるよりもちおがやりたいようにやった方が気が済むだろう。

 

境港

昼に神戸を出て、昼食はSAでカレーを半分こして済ませ、夕方境港に着いた。果たして境港駅前の回転寿司屋は板前が変わったのか目に見えて味が落ちていた。前回きびきび働いていた頼もしいお運びの女性もおらず、学生らしきお運びさんの仕事ぶりもいまひとつであった。わたしは疲れて眠くて写真を撮る気力もない。

 

それでももちおは大いに喜び、妻が先に店を出ても珍しくひとりでいつまでも寿司を食べていた。わたしは駅前の足湯に浸かりながらもちおを待った。金髪碧眼に流ちょうな日本語を話す母親と子供たち、アジア顔の父親の一団と足湯を囲みながら、駅で買った鬼太郎手拭いをもて遊ぶ。もうすぐ日が暮れる。いまから福岡に向かって何時に着くだろう。

 

一方もちおは境港の魚で大いに英気を回復し、見違えるように元気になった。そしてカーナビの案内をそこそこに聞き流し、ふと思いついて「出雲」と書いてある方へ車を走らせた。

 

出雲

書くほどのことは何もない。夕暮れの出雲は静かで、空は大きく、社は荘厳だった。玉砂利を踏みしめて本殿へ向かい、ニ礼四拍一礼で手を合わせ、挨拶をした。一年前に出雲を訪れたのはもちおが化学療法をはじめ、最初の休薬を迎えたときだった。出雲へ出るまでのあいだハラハラし通しで、ようやく到着して本殿を前にしても願い事を念じることはできなかった。来られただけでありがたく思わなければならない、どれだけ恵まれているか忘れてはならないと思っていた。それ以上のことを期待して失望するのが怖かった。

 

今回の胸中はある意味で去年より複雑だった。すでに危機を脱したと思っていた。いま危機にあるのか、深刻になる必要のない軽い後退なのかがわからない。それでも今回は出雲の地の平安とともに、そっともちおの健康の回復を祈った。希望は賭けだ。絶望していれば失望することもない。それでも絶望するより希望を持ったほうがいい。

 

境港、出雲と二段ロケットで勢いづいたもちおは、福岡までの帰り道をずっと元気に運転していた。びっくりするほど早く帰り着いた。もちおは予定外の無謀な冒険と境港と出雲が大好きなんだなと、改めて思った。

kutabirehateko.hateblo.jp

*1:往路はわたしが運転したのでほとんど寝ていた。