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スイス・レーティッシュ鉄道と鉄道むすめ駅乃みちか問題

このtweetをゲイ差別だ失言だくたびれはてこは差別主義者だと鬼の首を取ったように騒いでいた人がいた。わたしはこの発言を撤回する気はまったくないし、これを不当な差別だとも思わない。田亀源五郎*1に企業が依頼してパイロットのキャラクターをデザインしてもらうのは、クリムゾンに痴漢防止ポスターを依頼したり、町田ひらくに塾のイメージキャラクターを依頼したり、くじらっくすにファミリーワゴンの広告を依頼したりするのと同様に間違っている。これは企業にとっても作家にとってもそれまでとその後の仕事に大幅な制約を加えるものになると思う。

 

発端になったのはスイス・レーティッシュ鉄道が萌えキャラを採用した件だけれど、この件に限らずジャンプトイレマークをはじめジェンダー問題にオタクカルチャーが絡むと毎度毎度判で押したように同じことを言ってくる人たちがいるので、ここでわたしの考えをまとめておく。

 

職員をモデルにしたキャラクターのメッセージ性

企業が自社の制服を着た職員をキャラクターとして打ち出す場合、それは(1)企業が自社の商品をどのように提供するつもりなのか、(2)企業が職員に何を期待しているかを公に示すものになる。公共交通機関が巨額の広告宣伝費をかけて企業のブランドイメージを作るのはそれが経営を左右する重要な問題だからだ。

 

自社の商品をどのように提供するつもりなのか

公共交通機関が顧客に自社イメージとして打ち出すにふさわしい職員像とは、「交通機関の専門家」だ。乗客の命を預かる乗り物を着実に運行し、制御できること、不測の事態が起きても専門的知識を持って万全の策を講じることができる訓練された専門家、これ公共交通機関が自社の職員のイメージとして公に宣伝すべきものだ。

 

親しみやすく誠実で信頼できることはもちろん、職員が職業的な知識に精通しているプロだと信頼してもらうのは何より重要なことだ。人はアクシデントに見舞われたとき、職員が未熟でいじらしく幼い存在でいてほしいとは思わない。

 

企業は職員に何を期待しているか

同時にこのようなキャラクターは企業が自社の職員にどのような働きを望むかを示している。企業は職員が自社イメージを損なう言動を取れば厳重に注意する。

 

企業が職員をイメージしたキャラクターにポルノ作家の作品を起用するなら、その企業が自社の職員に期待しているのは性的なサービスだということだ。風俗産業など性的なサービスを提供する企業が名の知れたポルノ作家にイメージキャラクターを描いてもらうのは適切なことだろう。しかし公共交通機関が提供するのは快適な運行であって、性的サービスではない。

 

「ポルノ作家が公共機関のイメージキャラクターをデザインをすることに反対するのは差別だ」というなら、起用される正当な理由が必要だ。ホットでセクシーな旅を提供する、あるいはホットでセクシーな美男美女に選ばれる企業である。これはどの企業も使うCM像だ。しかしホットでセクシーな職員のサービスを公共交通機関に求めるどんな理由があるだろう。*2*3

 

ゲイアイドル系な義弟

田亀源五郎は著名なゲイポルノ作家だ。田亀先生のトレードマークともいうべき男性キャラクターたちはガチムチマッチョで男性ホルモンの権化のよう。いわば男性版叶姉妹だ。ぱっつんぱっつんのTシャツに透けた胸筋、汗ばむ肌と髯、胸毛、揉み上げが強調されたスタイル。ゲイのセックスシンボルをこれでもかと詰め込んだ夢の男性像がそこにある。峰不二子叶姉妹に代表される豊かな乳房とくびれた腰、砂時計のような臀部を持つ女性が多くの男性のセックスシンボルであるように、ゲイにも定番のセックスシンボルがあることがわかる。

 

ゲイブロガーごまぶっ子さんは「理想のハゲ坊主に出会いたい」としきりに書いていたが、わたしの義弟はガチムチマッチョのハゲ坊主で、恐ろしいほどゲイにモテる。新宿でラーメンを食べていたら隣の席の男性がしきりに視線を送ってきて、ついにペロリと頬を舐められ『ごちそうさま』と千円置いて席を立ったことがあったと義弟は困惑気味に笑いながら話してくれたけれど、これはなかなか怖い話だと思う。ジムで身体を鍛えはじめたころ、サウナと水風呂に黙ってどこまでもついてくる男性があらわれた。義弟はこちらも困惑気味な苦笑いでいたけれど、数か月後、ついに結婚指輪を誇示してその男性と距離を置いた。こうした話は枚挙にいとまがない。

 

義弟は優秀なエンジニアだ。もしも義弟を採用する会社が田亀先生のトレードマークであるガチムチマッチョの胸ぱっつんセクシーポーズ男性に自社の職員の制服を着せて看板にしていたらどうだろう。義弟に期待されているのがエンジニアとしての技術だけなのかどうかは疑わしい。義弟がセクハラに遭わないよう心配するのは当然だ。職場でのセクハラにはヘテロだろうがゲイだろうが警戒しておくに越したことはない。

 

ゲイを連想させるキャラクターが企業に不適切だということではない。田亀先生の描くガチムチマッチョは単なる男性ではなく、寺沢武一の描く女性同様セクシーなセックスシンボルだからだ。業務上顧客の幻想を叶えるセックスシンボルであることを求められる職場でない限り、こうしたイメージは不適切だ。

 

 

振袖とミニスカートとスイス鉄子

荒唐無稽で極端な話だと思う人もいるだろう。けれども多くの女性たちは企業が自分に求めているのは業務上の知識や技術なのか、「職場の華」として「女性ならではの癒し」をもたらすことなのか疑問に思うようなポスターや制服を度々目にする。

 

かつてのJALをモデルにした「スチュワーデス物語」というドラマがあった。フライトアテンダントを目指す堀ちえみは業務上求められる訓練として、救命胴衣のつけ方や英会話に加えて、機内トイレの中で振袖を5分で着るテストを受けていた。実際にそうしたサービスがあったかどうか知らないが*4ドラマの中のJALは国際線で機内食を提供するさいフライトアテンダントの振袖姿もサービスしていた。

 

いまだ航空会社はフライトアテンダントにタイトスカートとヒールのあるパンプスを義務付けているれど、さすがに振袖、草履はない。振袖姿で機内サービスを行うだけでも危険この上ないが、緊急時はどうするつもりなのか。フライトアテンダントに機内の安全確保を犠牲にしてまで機内の華であることを求めるのは間違っている。スカイマークは経営危機に瀕して腿を強調するようなミニスカートをフライトアテンダントの制服にしたことがあったが、これも振袖と同様である。

 

いうまでもなく、これは振袖やミニスカートが悪いという話ではない。TPOを外した不適切な選択だということだ。では萌えキャラはどうか。

 

職員をイメージしたキャラクターが企業のイメージを損なえば企業はダメージを受ける。東京メトロの職員をイメージしたキャラクターが、とろけた瞳に上気した頬で身体をくねらせ、不自然に身体に張り付いた制服を着ていれば、それは東京メトロの女性職員に期待されるのは運行の専門家であることではなく、乗客に性的癒しを与えるホステスだというメッセージだ。*5

 

「性的癒し」が「女性ならでは」のやさしさやきめ細やかな配慮であれ、凹凸を強調された肉体から醸し出されるセクシャルなものであれ、鉄道職員にこのようなサービスを期待するのは不適切だろう。よって公共交通機関が萌えキャラを採用するのであれば、そのキャラクターはけしてエロゲっぽさがあってはならない。エロゲまがいのキャラクターは企業のサービスを誤解させ、職員に対するセクハラになるからだ。

 

スイス・レーティッシュ鉄道はジャパンエキスポに際して箱根鉄道とコラボレーションして萌えキャラを採用した。誰もが一目でまごうことなき萌えキャラと認定するにふさわしい萌えキャラだった。しかしレーティッシュ鉄道が採用したキャラクター(以下スイス鉄子)は顔と頭身のバランスが萌えキャラなだけで、何ら「女性ならでは」なサービスを期待させる要素がない。

 

細かく見ていくとスラックスには脚の線が出ないよう配慮されているし、斜め掛けしたベルトが乳房に食い込むこともなく*6、身体の凹凸を仄めかす陰影もない。ジャケットはサイズがぴったりで、肩がずり落ち、指先がちょこんと出るといった幼さを強調する演出もない。

 

スイス鉄子が童顔であることは否定しようがない。しかしそれ以外は彼女が命を預かる鉄道職員として、運行に関する業務を滞りなく行う専門家であることを疑う要素はない。これはスイスが鉄道の職員に何を期待しているか、顧客に何を提供するつもりなのかを示している。彼女にメイドカフェのメイドのようなサービスを期待させる要素があってはならない。少女の立ち絵というだけでロリ!ロリ!と騒ぐ人は己の性癖を吐露しているのであって、レーティッシュ鉄道はこの種の期待に応える気がないことをスイス鉄子を通してよく示していると思う。鉄道むすめのキャラクターたちも同様である。彼女らは職務を果たす職員に過ぎない。

 

このような理由でわたしはセクシーシンボルをトレードマークとするポルノ作家が公共交通機関の職員をイメージキャラクターとしてデザインすることは不適切だと思う。それはポルノ作家の社会的地位や職業的尊厳の問題ではなく、提供するサービスを誤解させ、職員に期待される業務を逸脱させるものだからだ。振袖やミニスカートが悪なのでも、セクシーでホットなセックスシンボルが悪なのでもない。それはTPOと企業のコンプライアンス、また利用者のマナーの問題だ。

 

「おまえは差別主義者だ」

TPOと企業のコンプライアンス、そして利用者のマナー、また現実の問題である職員へのセクハラ問題を無視して、これを差別主義者だと言い募る輩に釈明する気持ちはさらさらない。彼らはわたしがはてなダイヤリーでエロゲの凌辱規制について意見を出したとき以来、かれこれ5年以上メンバー入れ替えしつつ延々粘着して罵詈雑言を吐き続けている。

 

彼らがやってくるのはいつもジェンダーなど何らかの差別問題が彼らのコンテンツに抵触するときで、彼らの言い分によれば彼らを不快にさせることこそ差別なのであって、彼らの愛するコンテンツに対する批判はすべて表現の自由の侵害であり、彼らの罵詈雑言は言論の自由であり、それを批判することは表現の自由の侵害、言論弾圧、人権侵害なのだ。もうそういうの、聞き飽きた。

 

彼らは自分たちに寄せられる批判はすべて「フェミ」によるものだと思っているし、自分たちが批判されるのは「オタク」だからだと思っている。フェミは男とポルノを敵視しており、性を嫌悪しており、オタクの愛するコンテンツを感情的な理由で不当に弾圧していると言い募る。彼らは自分たちに向けられる批判がオタクを自認する男女双方からも出ていること、サブカルコンテンツのすべてが差別的だと批判されているわけではないことをけして認めない。

 

彼らがフェミレッテルを貼る女性の多くが愛する伴侶や異性の家族、友人知人に恵まれていることも、好みのポルノ作家やセクシータレントを持っていることからも目を背ける。かと思えばそのような愛情と好意が自分に向けられないのは差別だと大騒ぎをはじめる。

 

彼らがいう「おまえは差別主義者だ」は「俺がみじめなのはおまえのせいだ」だ。*7自分の世話は自分で焼いてもらいたい。さして交流もない赤の他人に深夜にしつこくメンションを送って必死で自分の相手をするよう要請するのは間違っている。わたしがそこまで必死になれる相手はもちおだけだ。自分でそういう相手を探してもらいたい。

 

「とどめをさす」というエントリーを上げた人がいるようだけど、ほんと好きよね、勝ったの負けたの論破したのって。こういう人って現実に鉄道で働く職員が受ける女性差別や、女性の社会的地位の低さから起きる貧困やその子供たちの成育環境のこと、ゲイカップルが受ける蔑視については何もしないし、いわないんだよね。自分のコンテンツが脅かされたと思うときに都合よく出汁にして飛んでくる。

 

あなたがゲイを差別する気がないというなら、作家の名前を見ただけでゲイだから差別されたのだと早合点したのはどうしてなの。わたしがヘテロ男性向けポルノ作家なら、たとえばみさくらなんこつ先生だったら適切だというとでも思ったの。

 

あなたが声優の卵の子に手を出さずに送り届けたことでちょっと尊敬してたけど、「やれたかも委員会」見てたら、大切に思うから手を出さない人ばかりじゃないって最近わかったよ。あなたがいまこんなめちゃくちゃな言いがかりをつけて女性を叩いていること、彼女の目に触れなきゃいいなと思うわ。彼女のためにね。

 

ブクマから

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id:kutabirehateko『弟の夫』のキャラを起用すれば「我々は多様な家族のあり方を目指します」というメッセージを打ち出せます。ダメですか?

2017/04/27 10:57

多くの企業は少なくとも建前として職員の採用基準に性的志向や家族構成を審査していないことになっている。それでもなお企業のブランドイメージとしてLGBTQや複合家族を応援していることをアピールするため起用するとしたら、同業の職員を過激に凌辱するポルノは廃刊にし、今後同様の作品は書かないことを条件にするのでは。売れるまでの足がかりとしてではなく、本業で一大ブランドを築いてきたポルノ作家にとってそうした制限が割に合うのかどうかは疑問。

 

スイス・レーティッシュ鉄道と鉄道むすめ駅乃みちか問題 - はてこはときどき外に出る

スイスの鉄道萌えキャラがOKなのだとしたら、たとえどのようなポルノ作家であっても性的記号をそぎ落としたキャラクターが描けるなら採用されていいのでは?とも考える。作家性と公共性のバランス感覚があれば。

2017/04/27 12:14

b.hatena.ne.jp

わたしがここで想定している「ポルノ作家」とは「ポルノも描いたことがある」レベルではなく、名前と作品、書き手の世界観が大衆に広く認知されているレベルの人。言い換えると画像検索で作品の世界観が一発でわかる人ね。このエントリーで例に挙げた方々はその点ですでに大御所であり、キャラデザインを変えてみた程度では企業と作家双方のブランドイメージを一致させることは難しいと思う。あえて書くなら看板を下ろして画風を変え、過激な性的ファンタジーをテーマにした作品と企業が紐づけられないことを条件にするのでは。

 

スイス・レーティッシュ鉄道と鉄道むすめ駅乃みちか問題 - はてこはときどき外に出る

はてこさんから見て問題無しという評価のレーティッシュ鉄道のあの絵が、実は壮大なドッキリで書いたのは田亀源五郎氏でしたとなった場合、あの絵に対する評価を覆すことになるのだろうか

2017/04/27 17:34

b.hatena.ne.jp

上に同じ。今回の書き手についてレーティッシュ鉄道は書き手の過去作品をある程度調査していると思うが、過去作品に鉄道職員を凌辱する作品や車内風紀を乱す性犯罪をテーマにしたものがあり、それがスイス国内で広く周知されているなら採用しなかったでしょうし、今後そうした事実があれば不採用になってもそれを差別だとは思わない。スイスからPNで検索して、児童ポルノ画像が一発で出てくるならもちろんダメだろうね。

 

kutabirehateko.hateblo.j

*1:以下敬称あったりなかったり。

*2:追記:逆にいえばセクシーアイコンであることが求められる場であれば市役所だろうが国会だろうが採用すればよい。ゲイのセクシーアイコンなら同性カップルの養子縁組や相続権をめぐる問題など。しかし公共交通機関が利用者に向けて職員の性的志向を強調するようなキャラクターを採用するどんな理由があるのか。

*3:「表に出したらダメだってことか」と社会の恥部扱いしているように感じた人がいるようだけど、公共交通機関の職員像として不適切なことは不名誉なことではないし、最適だということも取り立てて名誉なことではない。権威にこだわりすぎだと思うわ。

*4:あったんだろうな。

*5:モデルになったオリジナル駅のみちかも困り眉で頬を染めているという指摘があるが、オリジナルは教科書や絵本に出てくるような素朴なデザインで不自然に下半身を浮かび上がらせるような陰影はついていない。

*6:この絵柄なら普通は間違いなく食い込ませるよ。

*7:スイス鉄子は認めて駅のみちかはダメな理由はなんだと言い募った人の「あなたはなぜ日本人を差別するんですか」とかね。