母の手料理を買う

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「掃除の仕事募集に申し込んだら電話で断られた」と70歳を超えた母がいうので切なくなって、「わたしの稼ぎから手間賃を払うからときどき食事を作ってほしい」と頼んだ。有料で家に呼ぶ口実と自慢の料理をふるまう機会ができて母大喜び。

 

母は昔から1円単位で倹約につとめており、いつもお金の苦労をこぼす。わたしは子供の頃、家はとても貧しいのだと思って戦々恐々としていた。蓋を開けてみると父の年収や祖父母の資産は貧しさとはかけ離れたもので、母が離婚後に受け取った慰謝料や養育費はバブル景気を考えてもかなりのものだった。母は離婚後不動産業界に入ってさらに相当な額を稼いだが、子供たちにはいつもお金がないで通していたので、あれやこれやで手にしたお金が子供に回ってくることはほとんどなかった。

 

その甲斐あって母はいま利便性のいい街に手ごろなマンションを買い、そこそこの年金と家賃収入があり、どう考えても我が家より貯金もある。それでも掃除の仕事を断られたと聞くと母が寄る辺のない老婆のように思えて胸が痛む。幼いころの刷り込みなのか「ママがたいへんだ」と思ってしまう。懲りない。年も年なので一人住まいで元気にしているかどうかも気になる。

 

母への同情だけではない。去年一年もちおの闘病生活を最優先させた結果、それまでの生活のリズムがすっかり壊れた。何曜日にどこへいって買い物をし、常備菜はこれとこれ、お弁当の予算がこれくらい、といったやり繰りを思い出せない。比較的得意だった部屋の片づけや収納すら混乱状態で、助けが必要なことも事実だった。

 

母は何しろ料理上手で、いうこと、やることはめちゃくちゃでも料理を食べると「こんなに美味しいんだからまあ仕方がないか」とかなりのことを水に流す気になる。「美味しんぼ」を「料理で屈服させる漫画」といった人がいたけれど、母の料理にはその種の威力がある。素材は神経質なほど厳選され、栄養バランスもしっかりしていて信頼できる。

 

漫画家の新條まゆ先生のスタジオではまかないに御母堂の手料理がふるまわれると聞いた。「料理上手で面倒見のいいおかあさんなんだなあ」とほのぼの思っていたけれど、細々と自営業をはじめてみて親に小遣いを渡すより雇った方が税金対策としていいのだと気がついた。

 

家の食費から材料費を渡し、手当はわたしの稼ぎから出す。以前は母の携帯代金を負担していたけれど、修理や手続きのたびに名義人であるわたしを呼ばなければならないのがいやになったらしく、現在は母が自分で払っている。手間賃は携帯代より多いので母の受け取りはプラスになった。

 

これで味をしめたのか、事務作業がまわらないと話したら「ママはそういうこと得意よ」と言い出した。本当にそういうことが得意なのは知っているけれど、帳簿なんか任せたら一から十まで口出しされることは間違いない。実際母親に事務代行を任せた知人は出費内訳についてあれこれ叱られるようになって困っていると話していた。

 

「あれこれいわれるから嫌だ」といったら「そんなことぜんぜんいわないでしょう!いついったのよ!」と日頃の過干渉を棚に上げて激高する。「『まったく、はてこはもうこんなものを食べて、もっちゃんがかわいそう!』っていつもいうじゃない」「いわないわよ!いつそんなことをいった?」「いつもいうでしょ、『まったく』ってママの口癖だよ?自覚してないなら知っておいた方がいいと思う」と答えた。母は黙った。おそらく「まったく」と言おうとしていたのだと思う。

 

話が出たとき家の食費から材料費として母にいくらか渡していいかともちおに相談した。母は節約の鬼なので、何食作ってくれるかわからないけれど、外食費よりは安くなるだろうからと思って。しかしどうしたわけかいまのところその計算は外れ、費用対効果は外食費とあまり変わらないか、むしろそれ以上という結果になっている。

 

申し訳ないので食費もわたしの稼ぎから出すべきだろうかと再度もちおに相談すると、「親孝行なんだから、一食いくらで計算するものじゃない」ともちおはいった。仏か。「それに回数少ない方がおかあさんに会わないですむから俺はうれしい」。いつもいつも親孝行につきあってもらって恩に着る。

 

ももちおにはいつも感謝の言葉をのべる。一方わたしに恩を感じる筋合いはないと思っていることを何かにつけ態度で示してくる。なんなんですかね。でも放っておけないのよね。ご飯は美味しいし、姿かたちはきれいだし、やることは面白いくて飽きないしで、いまだに手玉に取られているんですかね。 これだけいろいろあってまだ海外旅行とか、連れてってやりたくなっちゃうからね。親がどう思っているかはともかく親にしてやれることができて働いてよかったな、と思うからね。

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