伯母をおどかす甥助

幼稚園が夏休みで甥助が家にいる。甥助は最近迷路のドリルにはまっており、台所のテーブルで熱心に迷路を鉛筆でなぞっている。わたしは反対側に座って甥助が完了させた迷路に色鉛筆で色を塗る。日本語が通じるようになってきたのでやりとりができて面白い。

 

幼稚園には外国人が来て英語を教えてくれるそうだ。色の歌を習ったというので歌ってもらった。最初に「レェッ ィエロー オーレンジー」と色の名前が続き、さびでは「ヤカシヤメンボー ヒヤメンボー」とニコニコしながら謎の呪文を唱える。「ヒヤメンボー」は「Here Rainbow」だと思うが、ほかはまったくわからない。大人がみんなで首をかしげるのが面白いのか、甥助は「ヤカシヤメンボーヒヤメンボー!ヤカシヤメンボーヒヤメンボー!」とそこだけ何度も歌う。真似して早口でわたしも歌う。甥助がはじけるように笑う。

 

テーブルで向かい合い、うつむいて黙々と迷路に色を塗る。ときどき「ヤカシヤメンボーヒヤメンボー!ヤカシヤメンボーヒヤメンボー!」と早口でまくしたてると、甥助も続けて「ヤカシヤメンボーヒヤメンボー!ヤカシヤメンボーヒヤメンボー!」とまくしたてる。真言密教っぽい。

 

塗り絵に飽きるとクッションをぶつけあって追いかけっこをする。甥助は追いかけられるのが大好きで、わたしは日ごろ封印している怖い顔をときどき解禁する。怖い顔で追いかけられるのは楽しさ三倍増しみたいだ。

 

先日いつものようにクッションを投げ合いながら甥助を追いかけたり、隠れたところから飛び出したりを延々繰り返していたら、甥助が途中で「はてこばっかり、ずるい!」と言い出した。「ん?何が?」「はてこばっかり、ずるいよ!」「何がずるい?」甥助は追いかけっこは続けたいようだけれど、何かを交代したい様子だった。クッションは交互に投げ合っているし、居場所も入れ替わり続けているし、なんじゃら。

 

ああ、そうか!

 

わたしは何回目かにクッションをぶつけられたときに「甥助が来た!こわいこわい!」と怖がって見せた。甥助、満面の笑み。パッと顔を輝かせて「ぅあ~」とちびっこフランケンっぽく迫ってくる。「甥助が来た!どうしよう!逃げなきゃ!」と焦りながら廊下へ出ると、甥助はかつてないスピードで追いかけてきて、隅っこに追い詰められた伯母の背中に小さな手をうらめしやっぽくひらひらさせて「こわいぞ~」と脅し続けてくる。あのうらめしやの手って人を脅かす遺伝子かなにかに入ってるんですかね。

 

 この日を境に甥助の顔を見たらびっくりして怖がりながら逃げたり隠れたりしてみせることにした。家中逃げ回って追い込まれるが、三回に一回くらい逆襲して怖い顔で追いかける。甥助は絶叫しながら満面の笑みで台所のばあちゃん目指してかけていく。

 

甥助と遊んだ日は、よく眠れる。

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