セックスレスの原因は話し合いで解決できないものが多い

セックスレスで悩んでいる増田を最近いくつか読んだ。

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増田でもブクマでも「夫婦で話し合う」という言葉が盛んに出ていた。話し合いは必要だろうけれど、何を話しあうんだろう? 最終的には「お願いします」「わかりました、応じます」なのだろうか。でもこれは無理がある。セックスレスになる理由は話し合いで解決できるものばかりではない。むしろそっちの方が多いということをわたしはある本から学んだ。

 

書名が思い出せないので引用できないのだけれど、以前アメリカの医師が共同で書いた女性のセックスについて書いた本を持っていた。印象的だったのは「話し合う」以外の対策が山盛りだったこと。手元にある本では「がん患者の“幸せな性”―あなたとパートナーのために」がこれとよく似ている。*1*2

 

セックスに欠かせない肉体のケア

人間は肉体を通じてセックスをする。肉体の状態に問題があればセックスはできない。たとえばホルモンバランスが崩れて性欲が減退している、エストロゲンが不足しており脳が興奮しても膣が十分に伸縮しない、オルガズムを感じる能力が低い、または未発達でセックスが楽しくない、などなど。*3

 

過去のトラウマにもとづく心理的なダメージが何らかのきっかけで引き起こされている場合もあるけれど、それに気が付いても自分の意思とは無関係に身体が硬直状態になるのは身体の問題、あるいは脳のダメージともいえる。

 

医師らはそれぞれにどんな対策があり、どこでそれを受けられるかを詳細に具体的に説明していた。ホルモン療法、エストロゲンを補う食事やサプリ、運動のやり方。採血をするくらいの調子で、絶頂に達しないという患者にバイブレーターを使って実際に感じるかどうかを試し、その反応から問題を探る。夫婦のセックスのパターンを取材してNGポイントを指摘するカップルセラピーなど、かなり突っ込んだ治療の取り組みもしている。もちろんセックスに応じるよう要求するのではなく、ロマンチックラブが続くように口説くことの大切さも説明されており、動物実験のようではない。

 

「がん患者の幸せな性」は読者の性別、性的志向を限定した本ではないので、これらに加えて男性のホルモンバランス、性器の構造、前立腺に問題が起きた場合どんな現象に直面するか、その場合どのような対策があるかを扱っている。

 

乳房、睾丸、臓器の欠損、顔面の欠損、四肢の切断といったハードな肉体的変化をえたとき、体位や体力の問題をどう扱うか、心理的なダメージをどう軽減するか。くりかえされる言葉は「性生活をつづけよう」だ。

 

カップルの閉じた話し合いには限界がある

パートナーへの愛情や恋慕の度合い、セックスが好きか嫌いかではわからない問題がこんなにたくさんあるのに、セックスレスの話が出るとそこでの話題は主に愛があるかどうか、意思疎通は足りているかどうかに話題は終始する。なぜセックスに応じないのかをたずねても本人がその原因を知っているとは限らない。食欲が落ちている人が料理が嫌いなのか、気分が落ち込んでいるのか、臓器に問題があるのかを十分に自覚しているとは限らないのと同じだ。

 

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日本では性の問題は無難で具体性を欠く匿名の体験談でやんわり情緒に流してぼかすことが上品とされているように思う。反対に具体的な話をするときは刺激的に下劣な欲情を煽るように書くことが率直な話のようにいわれる。うっかりその辺に置けないようなタイトルと煽情的な表紙の本のなんと多いことか。

 

わたしが読んだこれらの本はそのどちらでもなかった。品位ある仕方で愛情を確かめ合うための具体的な対策を真面目に率直に扱っていた。「陰圧式勃起補助具」の画像や、見開き二頁で描かれた性生活を再開するのに役立つ体位の絵などもある。本を手にしたときはあまりのオープンさに笑ってしまったけれど、セックスをうしなうこと、つづけることはどちらも切実な問題で、笑いごとではない。*4

 

残念ながら日本ではこういう分野を医療ではなく一部のAV業界の方々が担っている。ヨッピーに取材されていた人気AV男優シミケンはオンデマンド配信の有料ビデオ講座を出していた。女性向けAVメーカーシルクラボでは人気AV男優鈴木一徹による愛撫講座ビデオを作っている。女性器をそのまま映像化するとモザイクが入って具体性を欠くので性器を模したクッションを使っているとのこと。*5

 

ハリウッド映画や欧米連続ドラマですっかりおなじみのカップルセラピーも日本では聞かない。精神科にいくくらいでメンヘラ!メンヘラ!と後ろ指を指されるくらいだから、夫婦二人でカップルセラピーへいったなんて鵜の目鷹の目で叩かれそうだもんね。これじゃあセックスレスは増えるよ。落とし穴はあるのに脱出法が共有されていないんだもの。

 

性生活を続けよう

医師の協力がないとホルモン治療は難しいかもしれないけれど、さしあたってがんでなくても「がん患者の“幸せな性”―あなたとパートナーのために」にはセックスのベースになることが簡潔、率直に書かれていて参考になる。アメリカがん協会の本だけど、巻末にはセックスに関する相談に乗ってくれる国内の病院一覧も出ていて実用的。

 

とくに機能的、外見的変化によって自信をなくしたり不安になったりすることを乗り越え、自尊心を持つことの大切さを説いた八章「性生活を続けよう」と九章の「独身のあなたへ」は全人類的に必要な知識だと思う。*6でもふつうの状態で手に取らないよね、こういう本。がんになったらなったで、それどころじゃない、「セックスなんて」後回しって思うじゃん。

 

妻からセックスを拒否されている増田たちがこのくらい真摯に妻と自分の性に向き合ってくれたらいいなと思う。たとえば増田たちは女性の膣がふだんぴったり閉じているものだと知っているかしら?エストロゲンが不足している状態では膨らみも長さもなく、そこにペニスを押し込まれることは苦痛でしかないことをわかっているかしら?かつて妻が応じてくれていたとき、そういう我慢を重ねていたかどうか知っているかしら?

 

どちらの増田も子供が目を覚ますと妻から咎められたということだけれど、そういう趣味でなければセックスは二人だけで邪魔の入らないところでしたいんじゃないの。絶望して泣きべそかくまえに、そういう基本的なところから考え直したらどうかな。妻さえ応じてくれれば解決という姿勢では、遠からず無理を強いたことが決定的な問題になると思うよ。解決手段は女性の生理と肉体を無視したファンタジーポルノからは学べない。シルクラボのいちゃいちゃAVでも見なさいよ。 ちゃんとお金を払ってね。

 

kutabirehateko.hateblo.jp

*1:アメリカがん協会が作成した60頁からなるパンフレットを翻訳したもの。こんなに出来のいい資料を配布するなんて、アメリカがん協会やるな。

*2:お見舞いに送っていただいた。本当にどうもありがとうございました。

*3:血液検査や何かで何がどう不足しているかわかるんだって。日本ではどこで検査できるんだろうね。

*4:これらの画像を紹介した瞬間、このブログはアダルトブログ認定される。そして実質アダルトはポルノの同義語だ。ポルノと現実の性はあきらかにかけはなれているのに。

*5:映倫はモザイク入れるよりもっとやることあるんじゃないの?

*6:ほかにも一章の「正常な性生活とは何だろう?」二章の「健康な正反応とは何だろう?」は全年齢向け性教育としてよくまとまっていて参考になる。

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