「性関係は結婚関係内に限られる」? まさか!

敬愛する骨しゃぶりさん江

 

貴重な連休を使ってこんなに詳しく説明してくださってありがとう。

honeshabri.hatenablog.com

しかしですね。わたしは「人間は乱婚型ではない」は大いに疑問だわ。最初のエントリーに書いたので重複になるけれど、以下にその理由を書くよ。

 

結婚=性関係の固定化は本能ではない

「失われた環」はハーレム型だったと考えられる有力な証拠がある。

どこに?確かにわたしの読み落としは多々あると思うけれど、この点でジャレド・ダイヤモンドが文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのかで出した「有力な証拠」は納得のいくものじゃなかったわ。

 

「昔は乱婚していたのか」という見出しから骨しゃぶりさんが紹介してくださった部族の家族形態は性関係によって結ばれるものではなく、部族内で認められるカップルのこと、つまりGO WILD 8章「同族意識」に登場するプレーリーハタネズミのカップルのようなものよね。

 

でも伴侶と連れ添うプレーリーハタネズミは一夫一婦婚といえるかといえばそうではなく、遺伝的な実態を調査すると乱婚だったという結論が出ていた。わたしはここから「人類もそうなんじゃないのか」つまり社会的な単位としてカップルになるけれど、性関係を固定化しない種なんじゃないかって書いたのよね。

 

「GO WILD」読んでたら、生涯カップルになる動物の研究が出てきた。自分の種を優位に存続させるため雄は雌を独占しているのだろうと言われてきたそうだけれど、遺伝子を調べたらどの雌もパートナーの子は半分くらいで、あとはよその雄の子だったとのこと。これは雌が浮気性だということではなく、カップリング形成している雄雌同士が外でも交尾するのがふつうで、雄は自分の子かどうかに関わらずカップルの雌の子を守り、育てるということだ。

 

不倫やポリアモリーって種として自然なことなのかもな - はてこはときどき外に出る

わたしは現代の人類が一夫一婦をスタンダードとしていることについては何ら反対しない。でも社会的な成り立ちではなくどんな性的傾向を持っているのか考えるなら、社会的な制度ではなく婚前であれ、結婚後であれ、そこに婚外交渉があるかないかが問題だわ。

 

ジャレド・ダイヤモンドはそれらをあっさり「例外的」「少数派」と書いているけれど、どうしてどうして。こっちの方がよほど思想による現実否認でしょ。生涯ただ一人の人と結婚関係内でしか性関係を持たない人がどれほどいることか。人類が一夫一婦婚を自然に受け入れる種だとしたら売買春、性奴隷、神殿娼婦、ありとあらゆるところに結婚外の性関係がみられるのはどうして?

 

何もキリスト教圏外の少数の部族の例を持ち出すまでもなく、日本だって通い婚なり盆踊りを代表とした乱交や夜這いが近代にいたるまで続いていたじゃないですか。いまも昔も(囲うかどうかは別として)愛人の一人や二人持つのはどこの国の人もやってるよ。*1

 

カップルは雌雄に限定されない

ペアでカップリングをして暮らす家族がいる。異性と組んで子育てをするとは限らず、中には同性同士で連れそって子育てをする動物もいる。同性カップルは繁殖の問題をどう扱うか。大丈夫。びっくりするくらい多様な選択肢で生物は次の世代に命を繋ぐ。

 

まず、同性愛カップルでも生涯異性と関係を持たないとは限らない。子供がほしい時期に協力してくれる異性と受精を成立させればいい。無事子供が生まれたら、シングルマザー、あるいはシングルファザー同士で子育てをする。

 

子供を育てられなかったら子供を欲しがっているところへ養子に出す。子供ができなかったら誘拐する。求める子供は必ずしも血縁でなくてもいい。同性カップルはこんな風に子供を育てる。これは人間の話ではなく、動物の話。

www.ishiyuri.com

前回引用したけれど、骨しゃぶりさん、ご覧いただけましたでしょうか。とてもおもしろい話だったよ。こうして動物の間でも人間の間でも古くから全世界的に見られる養子についてふれないのは片手落ちなんじゃないのかしら。「自説に都合の悪いことは書かない」ってこないだツイートしてたけど、「ジャレドさん、そういうことするよな」と思ったわ。ほかの動物がやっていても霊長類でやる種が見つけられないから? BORN TO RUN によればわたしたち人類はネアンデルタール人とすら大きくかけ離れている種だという話だったよね。

 

その思想はどこから来たか

自分のものであれ、他人のものであれ、思想を完璧に自覚することは不可能だわ。でも自覚しないことにはそこにある偏見に気付くことはできない。わたしはジャレド・ダイヤモンドが説明のために便宜上あのような方法をとったとは思えない。彼の思想は西洋キリスト教文化の影響が濃い。

 

彼がどういう層に向けて本を書いたかを考えればそれは戦略として正しい。「男と女が子育てを押し付け合うのは生物学上やむをえない」「なるほど!」っていう層はどこかといったら欧米よね。でもこのエントリーの冒頭に上げたような、同性カップルや養子縁組カップルのことを彼が例外として切り捨てているのは、マーケティングの成功のためでないとすれば動物学者としては文化的な視野狭窄だと思うな。

 

「進化論を学びたければ、まず思想を捨てなさい」と骨しゃぶりさんはおっしゃるのね。かつて進化論が奴隷制度を肯定するために使われたことを考えたら、偏見を助長させるために事実をねじまげるのは確かに危険なことだとわたしも思う。現実を見なきゃね。

 

とはいえ、というか、だからこそ、現実にある社会的な意味での結婚と性交渉が一致しないケースを少数の例外とはいえないことは認めざるをえないはずだわ。また自分の遺伝子的な意味で「自分の子かもしれない」場合だけでなく、あきらかに「自分の子ではない」子供を育てる種がいること、それが人間社会に見られることも無視できないんじゃないの。

 

かわいいは命を養う

あえて言おう。「かわいい」それは進化論にとって大切なことだろうか

 

男性であれ女性であれ、人が「かわいい」にどれほど熱狂するか、あなたはよく知っている人だと思うけど、どうかしら。これこそGO WILD 8章のプレーリーハタネズミのオス、また人の心に影響を及ぼすオキシトシンの問題なんじゃない?

 

わたしが血が繋がらない甥の例を出したのは、わたしが遺伝子によって操作されていないことじゃなく、操作されているだろうなと思ったから。つまり我が子でなくても同族の子を保育することで種が存続するように設計されているのかもしれないと思ったから。それが自分の遺伝子じゃなくてもね。

 

母親の乳の出が悪い場合、乳児を抱けば妊娠していない女性も乳母を出せると「人間の性はなぜ奇妙に進化したか」に書いてあったよね。女性は我が子を識別できるのに、胸に抱く乳児が自分と血縁であるかどうかは関係なく母乳が出るようになるのは、人が同族の子を保護するように出来ているからだわ。

 

でもそんなに難しく考えなくても、人はかわいいと思うもののためならかなりのことができるでしょう。早起きだってするし遠征だってする。そこに自分の遺伝子を残せなくてもね。違う?

 

「一夫一婦は人として自然」か

一組の男女が互いの血をひく子供をもち、その子が大人になって孫が生まれるまでずっと愛し合って暮らすのはすてきなことだと思う。でも性関係を持つかどうかに関わらず、生涯一人の異性にしか性欲を感じない人って多数派かしら。それが遺伝子に組み込まれてて、種として自然な成り立ちなのだとしたら、これほど浮気だ離婚だ三角関係だってならなかったんじゃない?乱交が自然ならそこに嫉妬や独占欲や痛みがあるのはなぜって?人が食べて飲んで生きるのは自然だけれど、それだっていつも楽しいことばかりじゃないもんね。

 

一夫一婦カップルがいて、同性カップルがいて、ポリアモリーアセクシャルもいて、独身者や複合家族がいて、それでも種として栄えているのが現実で、そっちの方が自然だと思うな。どうかしら。まさかあなたほどの知識人が同性愛は病気だなんて前時代的なことおっしゃいませんよね?もちろんこれだけ不自然な文化の恩恵を受けているわけだから、何もかも自然である必要はないけどさ。

 

「お言葉ですが」みたいなエントリーだけど、わたしはあなたの本の紹介や時計の紹介、旅行記やアニメのレビューが大好き。こうして話せてうれしいわ。

よかったらこれからも仲良くしてね。

kutabirehateko.hateblo.jp

*1:これが「雄が効率よく自分の種を保存するためだ」というのなら、もはや一夫一婦婚ではなくそもそもの定義が乱婚ベースだってことだわ。