モテ農夫のなぐられうさぎとエミリー

 

 

モテを語る人は相手を自分と同じ感情を持つ人間ではなく、キャベツか何かのように思っているんじゃないか、という話を続けて書いてきた。彼らは自分にとって養分となる人の歓心をこまめに育てる点で農夫に似ているので、このブログではモテ農夫と呼んできた。*1

 

先日おたすけおじさんの話を書いたときに、「そういえば『おたすけおじさんは自己愛性パーソナリティー障害の人のもとに集まるんだったな」と思ってwikiを見たら、ずばりモテ農夫型といっていいような定義があった。以下、着色ははてこがしました。

分類概要人格特性
反道徳的
ナルシスト
反社会的特徴を含んでいる。搾取的で、不実で、人をだます、無節操なペテン師という人物像をもつ 良心に欠けている。無節操で、道理に無関心であり、不実で、詐欺的で、人を欺き、傲慢で、人をモノのように扱う。支配的で、人を軽蔑し、執念深い詐欺師である
多情型(好色的)
ナルシスト
演技的特徴を含んでいる。ドンファン性格者(多情で誘惑的)であり、エロティックで魅惑的な自己顕示的人物である 性的に誘惑的であり、魅惑的で、心を引きつけ、思わせぶりである。舌のよく回る巧みな人物であり、快楽主義的な欲望に耽るが、本当の親密さにはほとんど無関心である。貧乏な人やうぶな人を魅了し、意のままに操る。病的に嘘つきで、人を騙す
代償的
ナルシスト
受動攻撃的な特徴を含んでいる。また、過敏で回避的な特徴を有している 自尊心の欠如および劣等感を中和あるいは相殺することに努める。すなわち、自分は優れており、特別で、賞賛されるべきであり、注目に値するという幻想を生み出すことで自己の欠損をバランスしようとする。それらの自己価値感は自身を強調した結果生まれたものである
エリート主義的
ナルシスト
純粋なタイプである。ヴィルヘルム・ライヒの男根期的自己愛性格に相当する 偽りの業績や特別な子ども時代の体験のために、自分は特権的で、特別な能力を有すると信じている。しかし、立派な外見と現実との間に関連はほとんどない。恵まれた、上昇気流にのった良好な社会生活を求め、人との関わりにおいては特別な地位や優越が得られる関係を築こうとする
狂信的
ナルシスト
妄想的な特徴をもつ 自尊心はひどく幼少時代に捉われており、普段から誇大妄想的傾向を示し、全能の神であるという幻想を抱いている人物である。自分は重要ではなく、価値が無いという幻想と戦っており、素晴らしいファンタジーを夢想すること、あるいは自己鍛錬を通じて、自尊心を再確立しようと試みている。他者から是認や支持を得ることができない時には、壮大な使命を帯びた英雄的で崇拝される人物の役割を担おうとする

いかがでしょうか。

モテ農夫がしきりに主張する「本心を伝える必要はない、とにかく相手が望むように応じろ」という不実で詐欺的で思わせぶりな態度、また「質の低い男、あるいは女は見限るべき」という自分は特別な人間とだけつきあうべきだという傲慢な態度、あらゆる手を尽くして人の歓心を買うことを合理化しながら、それでいて気に入らない相手は容赦なく陥れ、罪悪感を感じるどころかそんな自分を哀れむ受動的攻撃性などなど、あてはまるところがひとつやふたつではない。

 

前後しますが、自己愛性パーソナリティー障害の定義は以下の通り。

自己愛性パーソナリティ障害(じこあいせいパーソナリティしょうがい、英: Narcissistic personality disorder ; NPD)とは、ありのままの自分を愛することができず、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込むパーソナリティ障害の一類型である。 

自己愛性パーソナリティ障害 - Wikipedia

わたしは医師ではないので診断をくだす立場にはいない。また自己愛性パーソナリティー障害にある人がみなモテ農夫ではないだろうし、モテ農夫がそのように診断されるとも限らない。

ただ個人的にはこれまでモテを語る人たちに見られる利己的で不誠実な態度、他者とのコミュニケーションを回避して、上辺の自分だけで望むものを得ようとする生き方は、ここに集約されているように思えた。つまり対等な他者不在の考え方は、こじれた自己愛からくるのだろうと思った。

 

モテ農夫と小公女

モテを語る人々、またなんだか知らないがモテまくる人が、自分の身に降りかかったありふれた不幸を劇的で特別な災厄のように語り、自分を運命の犠牲者のように考え、しばしば自己憐憫に陥っていた理由がわかった気がした。本当はもっと自分にふさわしい人生があるはずだった、自分は本来違う人間であるはずだったと考えているんじゃなかろうか。

 

「小公女」という児童文学がある。植民地インドに豪邸を持つ富裕な紳士の一人娘セーラはイギリスの寄宿舎に入るが、在学中に父を亡くして一文無しの孤児になる。セーラはメイドとして学校で不当に扱われるが、自分は小公女だという幻想(ごっこ遊び)で誇りをうしなわずに生き延びようとする。

 

ちょうどあのセーラのように、モテ農夫たちは人生を上辺のものと考えながら、本来であれば自分よりずっと下の階層の人間たちの機嫌をとりつつ表面的に生き延びているんじゃないか。

 

セーラは幼いうちに母を亡くし、父親に溺愛されながら使用人たちの間で大きくなった。セーラには同年代の友達も、兄弟も姉妹もいない。父親は生前セーラを恋人か妻のように、また友達のように扱っていた。むかしは親から子ども扱いされない親子なんていいなあと思ったけれど、よく考えてみるとセーラは子供同士で遊ぶことがほとんどないまま寄宿舎へ入ったのだった。

 

そして「大人びて」「普通の子とは違っており」「頭がいい」セーラには同年代で対等に語り合える友達がいなかった。セーラが寄宿舎に入るにあたって熱烈にほしがったのは、友達ではなくエミリーという名の理想の人形だった。

 

エミリーとなぐられうさぎ

さて、まっつことid:HugAllMyF0128さんの記事の中で例の記事が引用された。以下まっつんで。まっつんよろしくね。

hugallmyf0128.hatenablog.com

まっつんの主張は、人を自分と同じ感情と尊厳をもつ人間だと思わず、主体である自分に対する客体だと思っている人がいるということ。そしてそういう人の中にはサークラや、モテキの夏樹、深夜の屋上によく知らない女子を呼び出す人のような、いわゆるモテ強者がいるということだ。

 

わたしはこれに強く共感する。ここに岡田斗司夫木嶋佳苗失恋ショコラティエの高橋紗絵子、またルールズ *2*3に代表されるような典型的なモテテクを指南するひとたちをいれたい。

 

わたしはそれらの人を農夫にたとえたけれど、まっつんは彼らをクレヨンしんちゃんの友人ねねちゃんのようなものではないかと考えている。

ねねちゃんは気に入らないことが起きるとぬいぐるみのうさぎをぼこぼこにする。劇中でこのうさぎはなぐられうさぎと呼ばれており、ねねちゃんのストレス発散と安心のために存在する。

 

わたしはセーラのエミリーとねねちゃんのなぐられうさぎは表裏一体ではないかと思う。セーラはエミリーをぼこったりはしない。*4エミリーのためにそれはそれは贅沢な衣装を何着もあつらえ、いつも大切に話しかけ、メイドに身をやつしたときもエミリーだけは手放さなかった。

 

これはセーラが話し相手を必要とする年齢で、ねねちゃんは会話より受容が必要な年齢だったからだと思う。しかし二人は自分が求めるものを人に主張するのではなく、意思を持たない人形に一方的に押し付ける点で同じ事をしている。

 

セーラとねねちゃんはどんな大人になったのか

わたしが思うに事態はセーラのほうが深刻である。

ねねちゃんは状況がゆるせばしんのすけと殴りあえばいいわけで、殴りあう二人を仲裁する親や保育士などの大人がいて、大人のストレスは基本的に大人同士で解決できる。*5

けれどもセーラは父親を慰める小さなレディとして育っており、父の死に際して人前で涙をうかべることさえなかった。*6セーラは同級生に対して教師のようにふるまい、母を亡くした下級生には自分を母親だと思うようにさとした。しっかりしているどころではない。

 

モテ農夫の子供時代はねねちゃんとセーラのようなものだったのではないかとわたしは思った。そして彼らは生けるエミリー、生身のなぐられうさぎを探しながら大人になるんじゃなかろうか。自分が生きていくためにどうしても必要な相手だからなんとしてもつかまえたい。そのためにはいくらでも譲歩する。そしてつかまえたら、今度は思う存分自分が望むようにつかう。

 

どうやってつかまえるのか。彼らは幼い頃、誰かのエミリー、誰かのなぐられうさぎとして生きてきた経験から、相手を受容し、愛らしく無害そうに見せることを学んだんじゃなかろうか。そうしてなぐられうさぎを、エミリーを探す人をおびき寄せ、相手を取り込んでいるんじゃなかろうか。

 

モテ指南とナンパ塾の不気味さはここにある。彼らは愛し合う人を探していないし、対話を望んでもいない。どちらも愛しい客体を捕獲するための手段を語り合っているのだ。

kutabirehateko.hateblo.jp

*1:これまでのモテ農夫の話は「モテとナンパをめぐる話」を読んでみてください。

*2:ヴォーグジャパンの30、40代女性に!仕事も恋愛も前向きになれる本、3選に選ばれたんだってよ。本家ヴォーグはどう思ってるのかね。

*3:VOGUE JAPAN 2015年 11月号の「ルールは破るためにある」は皮肉なのか。

*4:ぼこったのは一度だけ。

*5:しんのすけの父のひろしと母のみさえはその辺しっかりしてる。

*6:後に隣のインド人の家にいったときにミンチンから急襲されたときも「セーラが脅えていることはふつうの大人にはわからなかった」と書いてある。