パワーストーンとクリスタルのポチ

最近話題のパワーストーンに複雑な感情を持っていた。
貴石に真偽を確かめようのない付加価値がついてすごい値段で売られていること
売れるからとやたらに外国から石を掘り返してくることがなんだか嫌だった。
でも石を観るのはすきだし、楽しい。石に限らずモノには見えない力があると思うこともある。

それ系の石屋さんを何件か覗いてみた。
怖い思いをした。
最初に入った店は石屋さんだと知らなかった。
外装がすてきだったので、輸入雑貨のお店だと思って入ったのだった。
店内は床いっぱい、壁中の棚いっぱい、カウンターいっぱい石だらけだった。
移動式の賽の河原のような店内の奥に、捜査中の刑事のような目の店員が二人。
「これは、おいくらですか?」
「買うんですか?」

え?

「買うんですか?」
「いえ、ちょっと見てみたいと思って」
「触るお客さんがいるからね」

なんだか怒っている。こういう店は初めてなのでいくつか質問をしてみた。
「これだから素人は」という調子でがみがみ説明される。
もちおと二人でそっと目を合わせて、逃げるように店を出た。

別の店では明らかに服装とちぐはぐな色や大きさの石をじゃらじゃらつけている人が
「これはこういう力があって、しかもこの店で扱っている石のグレードは」
と別の人を捕まえて、えんえん喋っていた。その人はお店の人じゃなくてお客さんだった。
店員さんがわたしの指輪に目を留めて石の話をしていたらその人が飛んできた。
「ちょっと!ちょっと見せていただける?いま聞こえちゃって気になって!」
なんだかとってもハイテンションでキマっていて怖かった。

パワーストーンの世界に足を踏み入れるとこんなになっちゃうのだろうか。
すきな石でブレスレットをひとつ作ってみたけれど、その後ももやもやしながらつけていた。

さいきん水晶のクラスターがほしいと思って何店舗か店をのぞいてみた。
やっぱり怖い。なんかこう、独特の迫力がある。店舗にも店員さんにも。

パワーを吸い取られちゃってるんじゃないかという寝不足続きのような顔の人、げっそりした人
バブルが個人的に続いているような眼光鋭く勢いのある人
微笑んでいるんだけどたいへんな警戒心を感じさせる人

石の謳い文句もすごい。
エクソシストとの会話」という本に、
「精神的なものを物質でやりとりできるという考えに危険を感じる」
というような一文があったんだけど、それを思い出す。

一昨日猫カフェの帰りにもちおがふいに
「そこの店、感じよくない?」と言った。石屋さんだった。

 

真ん中のドアの両サイドに腰の高さの窓がある、小さな、これまた輸入雑貨の店のような造りだった。
宵闇の中で磨かれたガラス窓から漏れるオレンジの明かりが暖かだった。
そしていい匂いがした。
明かりと匂いに釣られて店内に入った。
鮑の貝殻でセージをいぶしている匂いだと教えてくれた。

この店の石はどれもみんなよかった。どの石も大切にされている感じ。
お値段はけして安くはないけれど、ピンからキリまでいろいろあった。
アクセサリーはどれも石の色や大きさの調和が取れていて美しかった。
控えめに石の名前と原産地と価格、そしておすすめポイントが書いてある。

「ここはいいね」
「清清しいね」
水晶のクラスターもあった。
「水晶って扱い方で気をつけることはありますか」
「いいえ。大切にしていただけるのが一番です」
パワーストーンのお店でときどき『定期的に浄化して』とか聞きますけど」
「うーん」
ちょっと難しい顔の店員さん。
「石ですからね。あまり気にされなくていいと思います。ふつうに大事にしていただければ」

 

浄化しないと石のパワーがうんぬんは?
「そう言ったほうが売れるからじゃないでしょうか」
おおっと。
「大事な石を身近に置いて、それを見て自分の目標を思い出す。そんな風に使っていただけたらと思います」

この方は店長さんで、ずいぶん昔にある店のショーウィンドウにあったある貴石に衝撃を受けたのだそうだ。
「それまで世の中に(おそらく貴石の類の)石があることを知らなかったんですよ」
「石といったら川原の石とかああいうのしかないと思っていたんです」
「地球が石でできているとか、そういうことを考えてみたこともなかった」
それ以来石の世界に魅了されて、終に店を出すことになった。

「私があのとき感じた衝撃をお客さまにも感じていただきたいんです」
「だから石との出会いがすてきなものになるようにといつも心がけているんです」
「お店の石はお客様のものをお預かりしているんですから」

これまで入ったパワーストーンの店の雰囲気や店内の人が怖かったこと
この店が清清しく明るい雰囲気で居心地がいいことを話してみた。

「なんか、逆なんですよね」もちおが言った。
「こちらは石がすきだから大事にするって感じ。あちらは石からパワーをもらう、引き出す、奪い取るって感じなんですよ」
「私たちはクリスタルヒーラーなので、パワーストーンの方がどう思っているかはわかりません」
なんだかしっくり来た。そして霧が晴れるように頭が整理された。

 

犬猫はかわいい。犬猫がいると元気が出たり、辛いとき癒されたりする。笑顔も出る。
だから犬猫を飼う人がいて、犬猫を育てて売る人もいる。
健康な犬猫を信頼できる飼い主に譲って犬猫も飼い主も末永くいい関係になればと思う人もいる。
反面、これは商売になるから売れる犬猫を量産して、目に付くところでどんどん売りたいと思う人もいる。

犬猫と暮らすのはいいものだと思って犬猫を飼う人がいる。末永く大事にする。
そういう人にとって犬猫には確かに癒しのパワーがあるし、人生を変える力がある。
でもそれは犬猫を飼いさえすればストレスが解消されて人生が開けるということではない。
そういうことを期待して受動的に犬猫を飼い始めた人は早晩挫折する。犬猫には世話が必要だ。
犬猫のほうで人間の世話をしてくれたり、悩み事に介入してくれたりするわけではない。

店長さんは石がとにかくすごくすきらしかった。
すきだから見て元気が出るし、がんばろうとも思うし、こんなものが存在する世界はすごいと思っている。
そしてこんな世界を作った何かに生きていることを感謝していこうと思う。
そういうことを思い出すのに石を見る。
石が棚ぼた式にいいものをくれるんじゃなくて、花を見たり動物を撫でたりして元気が出るように
石を眺めて飾って身につけて人生が楽しくいいところになる。
そうか、そういう理屈か。

わたしが感じていた違和感は花さか爺さんちからポチを奪った隣の爺さんに対する違和感だ。

 

「石に力があると考えて買われた方は、効果がなかったと思われるとがっかりされます」
「それで私たちを嫌いになるならいいんですけど、石を嫌いになられるのは石がかわいそうです」

正直爺さんの隣の欲張り爺さんなんかポチを撃ち殺したからな。
「なので、お好きな石を選んで大事にされるのがいちばんです」
どう扱えばいいかはあまり神経質にならなくてもいい。
「だって私たちは石の上に家を建てたりもしているでしょう?」

ということで、これはと思う赤ちゃんの握りこぶしくらいの水晶クラスターを買った。
スーパーマンの地球実家みたいな雰囲気だったのがよかった。
石はトイレの世話とか予防接種とかしなくていいし、餌も水もいらなくて助かる。
眺めていて楽しい。これはどこかの水晶の洞窟で真っ暗な中育ってきたのかな、と考えたりする。

わたしは不思議な力がこの世界にあると信じる。目に見えない力や世界があると信じる。
そしてそれはアニメや映画の中の魔法みたいなショーアップされたものじゃなくて、
気をつけて暮らしているとやっと気づくようなささやかなものだと思う。
ささやかだけど気づくと心底びっくりするようなことだと思う。

http://h.hatena.ne.jp/kutabirehateko/299870758448497673