憧れのデパートガール

 年に何度か変な仕事でデパートに入る。*1

 

Tシャツ一枚なんまんえんというマダム御用達ブランドが入っているフロアで、お客さまもマダムが多い。*2ここのフロアの店員さんはさすがに綺麗どころが揃っており、あっちもこっちもキラキラしてまぶしい。

 

でもこのフロアの店員さんの本当にすごいところはファッションでも容姿でもなくホスピタリティー、まるで親しい友人であるかのような温かさと親密さだ、ということに、今日別のフロアで仕事をして気付いた。

マダムフロアの店員さんは丁寧で礼儀正しいけれどフレンドリーだ。それも「よう、元気?」という馴れ馴れしい親しさではない。まるで一人一人がホテルマンのような、高級クラブのホステス、ホストのような、立場をわきまえた親しみを込めてお客様に接している。伝統ある老舗旅館だけど田舎に帰ってきたようなぬくもり感。ああいうの。

 

実はわたしの父と現在の妻である継母ちゃんはこういったハイブランドのお洋服が大好きだ。以前は「バブルを謳歌した世代はブランドで身を固めるのが好きだなあ」と思っていたが、ここ数年買い物についていったり、このデパートで働いたりするようになって、二人はモノを買うことで上質の親しさ、親密さをサービスとして買っているのだと気が付くようになった。

 

映画「プリティ・ウーマン」でヒロインのビビアンがハイブランドの店で意地悪をされ、泣いて帰るシーンがある。その後リチャード・ギア扮するエドワードはヒロインにコーディネーターをつけ、彼女の見立てでビビアンを大変身させる。最初の店の店員が二流の店の対応、コーディネーターが一流の店の対応だと思う。

本当に高価なものを売る店の店員は、お客は全員とりあえず一流の世界の人として接する。とりまビールで、という勢いで、とりま大切な上得意さまとして接する。見た目や話し方で大金持ちが見抜けるとは限らない。その後様子が違えばやんわり、相手にも周囲にもわからないくらいそっと、しかし確実に距離を置く。

 

父と継母ちゃん御用達の店には、それぞれ懇意にしているショップ店員がいる。二人はその人たちを甥か姪のように可愛がり、アドバイスを聞くのを楽しんでいる。店員さんの距離の取り方は絶妙で、様子を見ていると一見本当に気の置けない関係にあるかのように見える。でも絶対にこちらの気をそぐようなことは言わない。そして目玉が飛び出すような価格の商品を、まるで売り物ではないかのように「お好きではないかと思って」とすすめてくる。すごい。まじすごい。両親は服を買いながら、彼らにいいことをしてあげたような気分で帰ってくる。

 

世話になっているフロアにはうちの両親のようなお客様が毎日大勢来られる。レジ周りに寄り添ってやってくるお客様と店員さんを見ていると、友だちの親か親戚かなにかかな、という雰囲気。お客様はとても嬉しそうだ。そしてお客様をお見送りされた店員さんはすっと事務的な顔に戻ってクールに売り場に戻る。

 

こんな雲の上のような世界で、果たしてわたしにちゃんと仕事が出来るのか。当初は都会へ出てきたロシアの百姓のような気持ちで入ったが、スタッフのみなさんはわたしをその道の第一線にいる一流の人物であるかのように、手厚く、それでいて肩肘張らない親しみのこもった態度で仕事を支えてくださった。本当にどこかのすごい人物だと勘違いされているんじゃないかと心配になったほどだった。

今ではわたしがどの程度の人間かよくご存知だと思うけれど、仕事に呼んでいただくたび、スタッフのみなさんはとても暖かく迎えてくださる。なので「このフロアのみなさんのためにがんばろう」という気持ちで仕事に精が出る。

 

さて、今回そのフロアのスタッフさんの紹介で別フロアのイベントにも呼んでいただいた。

こちらのフロアは催事と高齢者向け商品が中心のフロアで、聞いたことのないブランドのお手軽お洋服や期間限定ショップなどが入っている。有料の貸し催事場もあり、趣味を仕事にしたい方々のあれこれが販売、実演されることもある。

 

こちらのスタッフさんは、前述のスタッフさんとは全然違う。同じデパートなのに扱う商品、というよりお客様から受け取る額から0がいくつか取れるとこうも違うのか、と驚くほど違う。

こちらでは「このフロアの仕事を何もわかってない人間に仕事をさせてやることにしたけれど、一応部外者に接する社員として礼儀正しく丁寧にふるまわないといけない。でも何かあったらすぐ注意せねば」という程度の、空港で手荷物検査をする人のような目で見られる。びっしり書かれた注意書きを渡され、閉店後も誰にも声をかけられない。

 

これはわたしに対してだけではなく、お客さまへの接し方にも表れているような気がする。このフロアの「お客様」はよそ者という意味でのお客様としてやや急ぎ足に歩く。商品は見たいけれど、声をかけられたらやっかいだ、という気持ちが滲み出ている。無視されればほっとするくらいだ。店員側には「逃がさへんで」と「お願いですから買ってくれませんか」という商売感が滲み出ている。仲良しの店員とお喋りが楽しみで、なんて雰囲気はない。もしも話しかけられて長くなったら店員さんもジリジリしてきそうだ。

 

わたしはこれまで長く世話になってきたマダムフロアのスタッフのみなさんが今では大好きだ。今回別のフロアの仕事を引き受けたのも、紹介してくださった方の顔を立てたいという気持ちからだった。始業に終業に笑顔で声をかけ、感謝とねぎらいをのべてくださるスタッフのみなさん。時には自腹でサービスを受けてくださるみなさんからのご依頼ならば、はてこがんばりますよ!と思ったのであった。

 

しかしわたしは今回痛感した。先のフロアの徹底したホスピタリティーはいう間でもなく売り場店員だけでなくスタッフに行き届いていたことを。お客様であろうとイベントゲストであろうと、素性が知れない人はとりあえず一流の人間として愛と敬意を込めて扱う。それがあのフロアの精神だったんだと。

そして思い出したんです。売り場店員の方々がお客様を見送った後ですっと浮かべる、あの美しい真顔を。

 

前置きが長くなりましたが、いま迷っていることはですね、とってもかわいくってお顔を拝見するたびに内心きゃーきゃー地団太を踏んでしまう、憧れのスタッフデパガちゃんのfacebookを見つけたんだけど、マジ仲良し気取りで勘違いして友だち申請しちゃまずいかな、ってことです。ええ。

 

アイドルの笑顔はファンとして楽しむことで満足するのが幸せかなって。

*1:変な仕事はサービス業です。通帳で職種聞かれて「うっ」てなった。

*2:ところでマダムの旦那さんってなんていうんだろう。ムッシュー?