男女同権なら、童貞でだいじょうぶ 其の五

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「おまえ、童貞か」。
かつては仕事仲間や友人知人の間で、男性に性経験があるかをどうかを聞くのは、男性が嫁に子づくりを手ほどきできるかどうかを知る上で役立ったことでしょう。女性が男性を台所から締め出し、断固として家事を教えなかった時代、平均かそれ以下の収入の男性が人間らしい暮らしをするにはお嫁さんをもらうよりほかありませんでした。お嫁さん・お婿さん紹介文化ではこの種のクチコミ情報は人の人生を左右するものだったのです。それは必ずしも人々を苦しめる恐ろしい習慣ではなく、見る目のある大人に若い世代はずいぶん世話をやいてもらい、結構上手くいって末永く幸せな家庭もありました。
 
しかし、子どもを持つかどうか、結婚するかどうかに周囲が極力関わらないことが美徳とされる現代において、このような質問はもはや形骸化されており、むやみに筆おろしをすすめたりするのはセクハラ以外の何物でもありません。おろしたあと紹介する身の振り方に当てがないなら尚更です。なんだか知りませんが「処女は鬱陶しがられるから早く捨てろ」に至っては、もはや人の体の作りを何も考えていないと申し上げざるをえません。
処女かどうか、童貞かどうかが一族の栄光と没落に密接に関わっていた時代と違い、人の性的な歴史を場をわきまえずに聞きたがるのは現代の日本において、とても失礼なことなのです。
 
また、0.03mmを切る奇跡のコンドームがお手頃価格で買えること、男女問わずコンビニでコンドームを買ったからといってご近所の噂にもならないことを考えれば、性関係をもったことがあるから私生児いるのでは、性病持ちではと必ずしも決め付ける必要はありません。それに性病の感染経路はセックスだけではないのです。いかなる理由であろうとも、性病持ちと結婚することが大勢の人の命に関わることだった時代とは違うのですから、性病も肺炎やインフルエンザと同様、治療が可能かどうかについて焦点をあてる必要があります。 
そして、これは今も昔も変わりませんが、初めての性関係が自分の意思によるものとは限らないことを考えれば、童貞・処女であるかどうかは必ずしも人の貞操観念や価値観、道徳観を測るものとはなりません。恋愛に浮かされて判断を誤ったのでも、強要されたのでもなく、納得ずくで安心してセックスにのぞんだ人は自分の幸運に感謝すべきです。
とはいえ100%の避妊法がないことを考えれば「セックスは配偶者とのみ」という考え方には合理性があり、相応に尊重される価値があります。そこに合理性以上のその人の人生観、価値観が現れているなら尚更です。性病と妊娠の心配さえなければフリーセックスでいいとすべての人が思うわけではないのです。
 
男性があらゆる場で率先し、責任を負うことが求められた時代、「いいから安心して俺に任せていろ」と大船の船頭として一族を引き受けなければならなかった時代は過ぎ去りつつあります。日本は男性が外で仕事が出来なくとも年寄り女子どもが飢えて死ぬ国ではなくなり、女性も家庭の外に仕事をもち、男性と対等に意見を言うことが法的に認められる国になったのです。男女同権の社会においてはセックスの場での事情もしぜんと違ってくるはずです。
 
夫は妻の上司でも責任者でもないはずです。セックスを楽しむ権利が男女双方にある以上、自分の意思や希望を伝える義務も男女双方にあります。女性は自分の気持ちを伝えたからと言って男性の面子をつぶしたと考える必要はなく、男性は何がなんでも自分がリードしなければならないと気負う必要はありません。男性は女性に「今日、どこへ行きたい?」と聞いていいし、女性は「お任せするわ」以外の言葉を返しても、図々しいわけではありません。セックスだって同じです。セックス中は女の喘ぎ声以外厳禁というAV文化の影響から自由になってください。わからなかったら心を込めて聞けばいいのです。賢く現代的な女性であれば「女にこんなことを聞く男*1はダメだ」なんて思わないはずです*2
 
と、いうわけで、はてこは男性と女性が対等な関係であれば、童貞かどうかというのはやいやいいうほどの問題ではないと思います。童貞を馬鹿にする人は頭が古く、旧態依然であり、形骸化された習慣を漫然と繰り返しているだけです。心ある家父長制度の中核にあった一族の先行きを思いやるという精神を考えれば、現代社会に適応した仕方で人の身を思いやることは出来るはずです。思いやりのない非童貞にどれほどの価値がありますか。思い上がる童貞と大差ないではありませんか。
 
童貞を馬鹿にしていいことはありません。童貞を馬鹿にするような非童貞・非処女たちと、童貞たちが仲良くしたがると思いますか? 「童貞乙w」という発言は、巡り巡って処女厨を増やし、処女厨の不愉快な言動が多くの女性を傷つけ苦しめる結果になっているという負の連鎖について、少し考えてみる必要があると思います。
 

*1:こういうことを聞くときは慎重に。一般的には嫌がられて当然だと思っておいた方がお互いのためです。

*2:強くなったと言われる日本女性ですが、いまだ美容院で「お湯加減いかがですか〜?」と聞かれても「はい」としか言えない人は少なくありません。「お痒いところはございませんか〜」と聞かれるたび返事に困るという人だって大勢いますので、ぜひ気持ちを汲んだ会話を心がけていただきたい。強い弱いによらず、またその義務があるかないかによらず、愛する人にやさしくされると嬉しいのは女性も男性と同じです。