ある大正生まれ日本男児の一日とその人生

・4時から5時の間に起床
・乾布摩擦を小一時間、腕を後ろに振り上げること百回
・読経
・14段ある手すりの無い階段を降りて食堂へ
・7時に朝食。メニューはパンとサラダ、フルーツ。食後にお茶
・14段の階段を上がって外出着に着替える。(のべ28段)
・9時45分に階下へ降り(のべ42段)家を出て、徒歩で病院へ
・10時から点滴
・昼前に帰宅。昼食は麺類中心。バナナやみかんなどを食べ、食後にお茶
・自室で休む。(のべ56段)昼寝。
・6時から6時半の間に階下の食堂で夕食。(のべ70段)和食中心。食後にお茶
・7時に自室に戻り(のべ84段)NHK7時のニュースを見る
・8時からは補聴器のいらない字幕の出る韓国映画を見たり、本を読んだりして過ごす
・8時半から日記と出納帳をつける。青竹踏み100回。着替えて9時前に就寝
 
・週に二日、通いで高齢者センターに行き、入浴と囲碁などを楽しむ
・週に二日、ヘルパーさんが部屋の掃除と洗濯をする
・現在の目標は囲碁の段数を上げること。新聞や雑誌の囲碁コーナーを読み、研究している
 
・キーボードの配列を覚えたいが、PCがいまいちよく分からない息子がよく思わないので遠慮している
・デジカメも使いこなしたいが、やはりデジカメがいまいちよくわからない息子がよく思わないので遠慮している
・デジカメやデジタル音源の仕組みに興味があり、孫の説明で概要を把握。納得
・分からない字は同日中に辞書を引き、聞き覚えの無い地名は電話帳で調べる
 
・八十代まで居合と習字をたしなんでいた
・この10年ほど手かざしにはまっている
・去年まで車を運転していたが、今年免許の更新を止めた。昭和20年より無事故無違反
 
・妻を看取ったのち、息子と暮らすにあたり、持ち物を一軒家から一部屋分に減らした
・その後も衣類を中心に持ち物の必要数を決め、超えたものは処分
・日記は記録を確認するため五年分を残し、毎年一冊ずつ処分
・実質財産はすべて息子に譲ってしまった
 
・高齢者センターでは女性が圧倒的に多いので、「婆さんたちがやいやい言う」とやや不満
 年齢を聞かれると10歳ほど鯖を読んで八十代と答えたりして楽しんでいる
・ヘルパーさんの名前と特徴などすべて控えている。
 「ちょいちょい人が変わるから、待遇がようないんやろうと思う」と分析
・「『韓国の女の人はみんなきれいよ、整形しとるから。あんたもどうかね』っちゆうたよ」
 と、ヘルパーさんをからかったりしている。冗談がすき
・デジカメでヘルパーさんの写真を撮っていたが、六十過ぎのヘルパーさん、満更でもない様子
 
・怒らない。
 「戦争中、おじいちゃんが一年兵やったときに風呂当番やったことがあったんや。
  戦地やからでっかい風呂桶を担いで移動して、夕方までに薪で沸かすんやけどな、
  ある時修練をサボった三年兵が、昼間から風呂に入ってや、
  『なんか、こら水やないか!』
  っちゅうておじいちゃんに桶で水をがぼぉっとかけたんや。
  そんときに何や知らん、情けないやら悔しいやらで涙がぼろぼろっと出てなあ、
  おじいちゃん、薪で三年兵の頭をぶん殴ったんじゃあ」
 
 祖父は眼鏡をかけており、一風変わったところがあるので戦時中意味もなく睨まれた。
 「毎晩呼び出されてなあ、その眼鏡はなんか!っちゆうて殴られたよ」
 積もり積もった怒りが爆発。祖父は戦地で軍事裁判にかけられたが、口をきいてくれた人がいたらしく、大きな罰はなかった。
 「それから“性質粗暴につき”っちゆう一言がおじいちゃんにずっとついてまわったよ。
  どんなに頑張っても一番にはなれん。成績がいいでもこいつは性質粗暴だからいかん、ってな」
 祖父は激戦区中国本土に送り込まれ、戦車に乗ることになったが一命を取り留めて戻った。
 
 「砲兵なったら自動的に等級が上がる。戻ったときは星が増えとったよ。
  そしたら『一人、大学出の優秀なんにものを教えて将校にするやつをよこせ』っちゆう話がきた。
  結局その時も仲間はずれにするようなもんで、おじいちゃん一人内地に帰らされた。
  おじいちゃんは仲間と一緒に行きたかったよ」
 祖父は現在麻布獣医大学の敷地になっている相模原の軍事教練所で、馬術と剣道を教えて終戦を迎えた。
 
 「それからはもう二度と怒らんようにした。怒りが湧いたら、それは消す」
 「まいにち布団に入ったら“性質粗暴、意志薄弱”っち言うようにしとる」
  意志薄弱、は囲碁でくじけないように言っているらしい。
 
・悪口と愚痴を言わない
 「おじいちゃんの人生を書いてみてごらん、そりゃもう楽しいことばっかりやったよ」
 「ここは階段があるやろ。おじいちゃんは、あれは自分を鍛えとると思おとるんや。近所の運動公園へ行くとおっきな階段があるけど、あっこの階段は100段ないよ。あっこ行かんでもいちにち家におったらそれだけ登るもんな」
 「考え方の問題や」
 
・耳は遠いが、歯はほとんどある。数年前白内障の手術を受けたが、視力の回復を信じて疑わない
 「こっから遠くの山の杉を見て、それを毎日数えよったら、眼が強くなると思ってな。毎日数えよる」
 レーシック手術を受けた孫がやっと見える距離の山腹に、確かに杉のシルエットが数本あった
 視力維持と強化は砲兵時代に覚えた。実際かなり回復した模様
 
・名言「ほんとのことを言うとおおごとすることがあるよ。馬鹿に馬鹿っちゆうたらそらたいへんや」
 
・自室の前の廊下に飾られたトーテムポールの前を通るたび「よし、百まで生きるぞ」と誓う
 
<追記>
 小児性愛や強姦を官能的に描く表現を規制することと、表現の自由の兼ね合いについて聞いてみた。
 「それは表現の自由やのうて、人道的な問題やなあ」
 
こちらの祖父ではありません。

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