パクリとリスペクト、また親孝行と親を敬うことの違い

リスペクトってなんだよ、俺はアーティストじゃないんだよ」と思われたみなさん、こんにちは。
そして「俺も殿はやめたいんだけど、お目付け役が許さないんだよ」とお悩みのみなさん、「下野して親を泣かせた俺は親を敬ってるとはいえないんじゃないか」と心を痛めているみなさん、またそのご家族の方、元気を出してください。
今日はこのリスペクトという概念が、対人関係においてどんなに便利かご説明したいと思います。
 
親をリスペクトするとは親孝行をするということでしょうか。
とんでもない、リスペクトを親孝行に置き換えるとそれはそれはたいへんまずいです。
 
まず最初に「敬う」を辞書で見てみましょう。 

「敬う」 自分より・偉い(目上の)者に対して、それに付き従い、大切にしようとする気持ちを・持つ(行動・態度に表す)。

人を見捨てず、礼儀正しく大切にしようと思う。だいじなことですね。
では次に孝行を見てみましょう。

「孝行」 自分(たち)を育ててくれた親の言いつけをよく守り、また、老後には、その面倒を見ること。
 三省堂新明解国語辞典 第三版より

言いつけを守り、老後には面倒を見る。
一見害のない立派な概念に見えますが、この通りにやるとどうなるか。
 
世界中の親のみなさんが、常にまっとうでためになることを子どもに言いつけてくださればいいのですが、親も人の子。たまにはあまり深く考えず、悪気なく子どもの人生が台無しになるようなことを言いつけてしまうことだってあります。
中には役に立たないどころか実行するとお巡さんに捕まるようなことまで子どもに言いつける親がいることは、みなさんよくご存知だと思います。
 
自分を守るため、また親のことを真摯に考えるからこそ親の言うとおりにはできない、という場合もあるでしょう。
親を愛するがゆえに親不孝の汚名を甘んじて受けなければならないなんて、親孝行とは難しいものです。
 
ところがリスペクトならこんな心配はまったくありません!
 
リスペクトという言葉はミュージシャンやアーティストが、尊敬する同業者に対してよく使います。
自分が認める人物の作品に感銘を受け、敬意を込めてその作品と相通ずるものがある、独自の作品を作りあげたとき「これは誰それをリスペクトして作った作品だ」なんて言いますよね。
 
これがあまりに似ているとリスペクトというよりパクリだろ、という話になり、掲示板は炎上し、まとめサイトが作られ、VOCALOIDに囃し立てられ、という結果になります。
リスペクトはコピーであってはならないのです。
 
互いにリスペクトしあっているアーティストはジャンルを超えてつながり、すばらしい作品を作ることがあります。
忌野清志郎細野晴臣坂本冬美はHISというグループを結成していい歌をたくさん作りました。しかし言うまでもなく忌野清志郎は演歌の方が優れていると坂本冬美にシャッポを脱いだわけではありません。
細野晴臣も派手なメイクでがんがん歌っていく路線に変更したりはしませんでした。
 
渋谷知美上野千鶴子のウェブ対談をまとめた大野佐紀子さんのこちらのエントリーに、こんな言葉がありました。

授業の最後では、女であろうと男であろうと、若いうちに三つの自立を目指してくださいと言っている。
 
一つ目は生活の自立で、自分自身で自分の身の周りのことはだいたいできるようにする(衣食住に関わる家事全般)のこと
二つ目は経済の自立で、自分自身の食い扶持は(少なくてもいいから)稼ぐこと。
三つ目は精神の自立で、自分の生き方は自分で決め、一人でも楽しく生きられるようになること。
 
 “これが男の生きる道 ? - 上野千鶴子vs澁谷知美、‥‥‥そして橋本治 Ohnoblog 2

生活技能の自立、経済的自立、精神的自立。
人に依存しないで生きていくにはこの三つの自立が大事だよ、というお話です。
 
これをプロのミュージシャンの自立、あるいは独立に置き換えるとどうなるでしょうか。
 
1.プロとして求められる音楽的技能を身につけていること
 (その世界で生きるために必要な技能を身につけていること) 
2.音楽で食べていけるだけの社会的成功を収めていること
 (経済的にひとに依存していないこと)
3.独自の音楽を作り出していること
 (精神的自立)
 
尊敬する人の演奏技術や仕事のやり方を学ぶ。売れる音楽を作り出す。プロって感じがします。
でも作ってるのはオマージュとかリスペクトっていうよりパクリ。人の褌が拠りどころ。
これでは独立したプロとはいえません。
 
こういう人が好かれないのはアーティストに限った話ではなく、いつも誰かとそっくりの服を着て、誰かが言っていたことをそのまま自分の意見として話す人はやはりあまり好かれません。
それがかわいく見えるのはふつう子どものときだけです。
 
私はモノマネを見るのが大好きですが、モノマネが面白いのは真似る対象を見ている人の独自の視点があるからだと思います。
その人の注目している特徴が誇張され、あるいはそっくりに再現される。見ている方は全く違う人が再現して見せる誰かや何かを見て、ああ、なるほど、そういうところがあるなと驚かされます。
そこには違いを認めるという意味での深いリスペクトがあると私は思います。
 
さて、親孝行しつつ自立しようと思う場合、親が完璧でない以上、親との対立は避けられません。
でも親をリスペクトしつつ自立するには、(少なくとも自分の中で)親と対立する必要はまったくないので気が楽です。
リスペクトとは相手の言いつけを守るとか、相手と同じになるという概念ではないからです。
つまり、
 
1.親が望もうが望むまいが自分が生きていくための生活技能を身につけること
 その点で親から学べることがあれば大いに“リスペクト”して学ぶこと
2.親が望もうが望むまいが経済的に親に依存しないで食べていけるようになること
 仕事に対する親の姿勢から学べることがあればこれも大いに“リスペクト”する
3.親と似ていようが似ていまいが、また共感されようがされまいが独立した考えを持つこと
 また自分自身の考えを尊重するように、親の独自の考えも尊重する、つまり“リスペクト”する
 
これであなたは親をリスペクトしながら親から自立することが可能です!
あなたは親不孝かもしれませんが、ご両親を十分敬っているといえます。それは立派なことです。
おこがましくも親に自分の意見を押し付けたり、賛同してもらえないと何も出来ない子どものように振舞う必要はないのです。
 
人を尊重するという義務を果たしているあなたは、良心に咎めを感じることなく自分を尊重する権利があります。
健全なご家庭なら、そのようなお子さんの自立はご家族にとっても大いに誇らしいことでしょう。
 
そしてこの考え方はお友だち同士でも、恋人や夫婦の間でも有効です。
 
リスペクトってなんて便利な概念でしょう! 
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