押しかけうざ奴隷

年の瀬の女王さまたちがお悩みです。

「はー、マジでブルー入るわ」
「どうしたの?」
「なんか家の前で奴隷志願に待ち伏せされててさ」
「うっそ! なんで」
「わっかんない。無駄にコートの下全裸で緊縛状態でさ、“あたしは今日から専属奴隷です”とか言い出して」
「こわー。で、どうしたの?」
「こんな格好で近所うろつかれたら迷惑じゃん、普通にシカトして部屋入ろうと思ったらさ、名前にさま付けで大声で叫ぶんだよ」
「マジで?!」
「もうほんと焦って思わずあんたなんなの?! って怒鳴っちゃったんだよね。で、しまった、乗せられた!って」
「ダメじゃん、喜ばせてるじゃん」
「そう。なんかもう目をうるうるさせて“もうしわけありません!”って両手を絡めてあごの下でくねくねしてんの」
「全裸コートで」
「それがコート以上にすっごく突っ込みたくなる話し方でさ」
「挑発奴隷だ」
「あれ普通の人でも殴っちゃうんじゃないかな」
「それで、どうしたの」
「家の前で名前叫ばれるのも迷惑だからどうしようかと思ったんだけど、とにかくここを離れようと思って。そしたらすごい勢いで追いかけてきて“お荷物お持ちします”って、買い物袋を奪われたの」
「強盗だよそれ」
「しかも“あっ!”とか言って袋を地面にぶちまけたんだよ」
「えー!」
「もう割れたシャンパンの瓶で頭かち割ってやろうかと思ったよ」
「割らなかったの?」
「なんでタダでそんなサービスしてやらなきゃなんない? でももう向こうは期待ではちきれそうなの。“あたし、こんなんじゃ奴隷失格ですよね…?”って卑屈で押し付けがましい上目遣いでさも怯えたように言うんだよ」
「こっちが怖いよ」
「これ以上なんかやられるとたまらないから、もう精一杯自分を抑えて“何のことだかわかりませんけど、うちには必要ありません。お引取りください”って言ったよ。でもダメなの。冷たい言葉でつれなくされてる自分に酔ってる空気がねっちょり伝わってくるの」
「なんでロックオンされちゃったのかなあ」
「やっぱ顔出しなんかするもんじゃないよ…」
「お店に来ればいいのにね」
「お金ないんだと思うよ」
「お金払うの惜しくって押しかけるとかずうずうしくない?」
「まったく奴隷の癖にね。ていうかね、“あらそう、じゃあ奴隷らしくあたしのために働きなさい。あたしの顔を見ていいのは月に一度、お金を納めるときだけよ”って言ったとするでしょ?」
「いいね。でもしないだろうねー、そういう人は」
「そうなの。主人に奉仕する気がないのよね。放置プレイひとつまともにできない」
「お仕置きとご褒美以外受ける気ない」
「そう、呆気にとられるくらい受身のくせに快楽への執着がものすごいの」
「しかも頑固」
「うん。何か命じられても真剣に取り組まない、努力しないくせにすぐ泣く。ずさんな結果を出せば注目してもらえる、くらいに思ってる」
「いるいる。もう何でもいいから早くお仕置きで気持ちよくして、って感じのひと」
「なのにこっちのことは責めが甘いとかなんとかどこまでも要求が多いの。受け身で全裸になってるだけでどんだけエライつもりなんだと思うよ」
「そうだねー。そのくせ自分は無私で献身的ぐらいに思ってるんだよね」
「何もかも人任せで1グラムも脳みそ使わないくせにさあ」
「いやいや、いかに責任を回避して人生をデレゲして、人から反応を引き出すかっていうことにはかなり頭を使ってるんじゃない?」
「そうかもね。もう殺すしかないかなって思っちゃうよ」

こういうおんぶお化けみたいな人って、正面から攻撃的な人よりずっとやっかいですね。
SM嗜好のある人に限ったもんじゃありませんが。

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